シーキャット用外部追加兵装 航路ブースターユニット  T15現在、共和国において宇宙戦力の整備が遅れているのは周知のとおりである。  本機シーキャットの開発によりI=D戦力の向上は見込まれたものの、拠点防衛ならばともかく、戦略移動を行う際に必要な搭載母艦等の輸送手段に関しては、未だ十分とは言えない状況であった。迅速な戦力展開ができるかどうかという点は、戦力整備において重要なファクターとなることは容易に考えられ、これを如何に解決するかということも本機開発時に議論に上げられた。  そこで開発陣は、半ば緊急避難的アプローチではあるが、このI=D自身に戦略機動力を付加することとした。I=D本体とは別に、追加オプションという形で航路ブースターユニットを開発したのである。  そのコンセプトは優先度順に、以下とされた。   1 I=D本体の製造・運用コストを高騰させない。   2 最低限度の戦略機動力を付加する。   3 本ブースターに関しても、各種コストを抑える。  1に関しては、不足する宇宙戦力の拡充を目指す際に、機体の高コスト化を避ける必要があったためである。仮に本機が高コストとなれば、配備においてなにより必要となる「数を揃える」ことが難しくなる。また実際に運用する段になっても、リソース消費が激しければ限られたものとなろうことは容易に予測できた故でもあった。従って、機体のコストを抑えつつ戦略機動性を付与する手法として、I=D本体に航路移動力を持たせるのではなく、外部追加兵装として航路ブースターユニットを用意するという答えが導き出された。  この手法では、I=D側に必要とされる機器はブースターとのジョイント程度となり、単体で見れば製造コストを殆ど圧迫しない。またI=Dとブースターユニットの生産ラインは別のものとなるため、I=Dを量産しつつも必要な分のみのブースターを生産するという方式が取れ、シーキャット配備に対する影響は最小限度に抑えられると見込まれた。  また他方、開発元であるakiharu国においては、恒星間輸送船コールドオータムにおいて二次機材としての接続式キャリアー開発の経験があり、この手の設計資産が豊富であったこともブースターユニット方式採用の一因となり、その開発において有為に働いたことも見逃せない。  2に関しては、駐留拠点から隣接戦域に進出しうる程度の、すなわち1航路分の戦略機動力が企図された。緊急展開用途としてはこの程度でも有用であろうし、侵攻時にしても1航路を越える長距離侵攻においては、I=Dのみによる戦力編成は現実的ではないと考えられたためである。  この場合、航路移動後の帰還は出来ない計算となるが、進出戦域の安全が確保された後に輸送船なり新しいブースターユニットなりを送ればいいと割り切られた。これは外部追加兵装形式ならではの話であるが、一方で副次的に、中間拠点でのブースターユニット交換によるI=Dのみでの長距離戦略移動も不可能ではない、とも考えられた。  3に関しては、如何にI=D本体の製造・運用コストを抑えたとしても、ブースターユニット側のそれらが高くなると実用性が失われる、と考えられたためである。この実現に関しては、徹底的な性能・機能の割り切りが行われた。  まず第一に、ユニットを装着したままでの戦闘は一切考えなかった。あくまでも戦力としてのI=Dを、ブースターによって戦地に送り届けることのみを機能とし、戦闘時に必要な運動性は付与されていない。接続方式から比較的I=D本体は自由な動きが可能であるため、ユニットを装着したままでの砲射撃も不可能ではないが、規定された行動ではなく、慣性による進路のずれもあって原則として行わないこととされている。  続いて、航路計算を行う能力も切り捨てられた。メインバーニア等の制御を行う演算装置は搭載されているが、ユニット側でリアルタイムでの能動的な航路計算は行われないため、高性能なものではない。では如何にして航路に沿った移動を行っているかというと、あらかじめ航路データをプログラムモジュールとして用意し、I=D側にインストールする方式を取っている。これは宇宙用I=Dには元より天測等による位置測定システムが必須であり、改めてユニット側にそれらの機能を持たせるよりはI=D側に任せたほうがリソースの抑制に繋がると考えられたためである。またこれにより、航路途上で緊急的にブースターユニットを廃棄した場合においてもI=D側に位置情報が残るため、現在位置を見失うリスクが低減されるという利点もあった。なお、言うまでもないことではあるが、ユニット装着時にはI=D本体のデータリンクは確立されており、一体的な制御がなされている。  そして、ユニットの再利用は行わず、原則的に使い捨てとされた。再利用に必要なだけの堅牢性を持たせるよりも、一回限りの使用において必要なだけの耐久性確保に留めた方が、総合的なコストダウンを図れると考えられたためである。また再利用可能とした場合は、回収や再使用に向けての整備に見込まれるコストが大きく、追加オプションとして見た場合に無駄が大きいとの判断もあった。