It's a fine day.  It's a fine day.  マイクロフォン感度良好。  これより記録を開始する。  私の名前は木豆 小果実<キトウ オガミ>。  praying mantis<祈祷する予言者>の「祈祷」と、拝み虫の「拝み」を、左右対称の漢字で当て字にした名前だ。  つまり、私はカマキリだ。  先日、本土の友人たちがこちらへの移転を計画しているとの連絡が受けた。  ゆえに、我々に万が一のことがあった場合、その解決の手がかりとして火星の現状について情報を遺す。  現在、火星では彼らの受け入れのため、テラフォーミングを急ピッチで進行している。  火星は鉱物資源が豊富であることはご存知だと思う。  だが、現状では本土の友人たちをまかなうほどの食糧備蓄もなければ、居住空間も確保できていない。  火星の大気はまだ本土の冬のように寒く、カマキリはもちろん、他の知類にとっても過酷な環境であることは、いなめない。  そのため、現地改修したI=Dで仮設住宅の建設を行っている。  この機体は、本土の友人たちが言うところのシーキャットの改造機である。  先ほど述べたとおり、火星の大気は生物に厳しく、本土のような大型のカマキリはまだまだ生存は難しい。  土木建築の労働力は、どうしてもI=Dに頼ることになる。  改造した本機は、パイロットが搭乗したナビゲーター機から、半自律型のサーバント機に対し命令を送り、少ない人員でより多くの建設を行っている。  一般にこのような形式はマスター・スレイブと呼ばれるのかもしれないが、Master<飼い主>とSlave<奴隷>という表現はポリティカル・コレクトネス<中立的な表現>ではないという判断から、我々はNavigator<誘導者>とServant<奉仕者>と呼んでいる。  サーバント機が自律的に動くと聞くと、BALLSのようなものを想像されるかもしれないが、そうではない。  これはフィクションノートがいうところの「はやぶさ」に毛が生えた程度のものであり、自己生産や自己改良を行うことは想定されていない。  TLOを使わず、枯れた技術で可能な限り、堅実に設計したつもりだ。  しかし、自律は自律。  自動化によって効率性を高くするということは、命令を間違えたり、誤作動を起こした場合、その被害も拡大するということである。  規模の差はあれ、危険であることに変わりはない。  サーバント機は燃料を意図的に少なくし、また出力を下げるデチューンを行っているが、どれだけ対策を施しても絶対安全ということはありえない。  99パーセント成功の事象でも、70回連続で成功する確率は50パーセント未満だ。  我々はリスクをとって、惑星開発を行っている。  我々の勇敢な仲間ファインダーは、本土の友人たちが非常に危険であることを指摘したが、同時に分かり合える可能性があることも教えてくれた。  願わくば、彼の判断が正しかったことを信じたい。  言い忘れていたので、追伸だ。  まじめに生きるには人生は深刻すぎる。  火星では特にそうだ。  もし、生きて本土の友人たちと会うことができたら、私は彼らからユーモアを学び取りたい。