●現代軍の歩兵  現代軍の歩兵の主要な作戦行動は対機甲、空中機動、着上陸、対着上陸、局地防空、地域警備及び治安維持から成る。このため戦車、砲兵、空軍の協力下で敵部隊の捕捉撃破、地域の占領確保、警戒監視、偵察、敵後方地域への潜入・攪乱、伏撃、テロの掃討など多様な任務を遂行する。  各国軍の歩兵は任務に基づき付与される火力装備、移動手段により軽歩兵、機械科歩兵、(機甲歩兵)、空挺歩兵、空中機動歩兵及び海軍歩兵(海軍陸戦隊)に大別される。  徒歩で移動し戦闘する伝統的な姿の軽歩兵は森林、泥沢地、山地、錯雑地、市街地など障害が多い地形の行動に適するように軽装備である。したがって旅団、連隊、大隊及び中隊は指揮連絡、重火器、補給品のの輸送など用途に限られた数の車輌を装備する。  このため全力同時に移動する部隊は上級部隊からトラック、装甲車又はヘリコプタの支援を受ける。このような輸送支援を受けた状態を自動車化歩兵、装甲化歩兵、ヘリボン歩兵と呼ぶ。輸送機で長距離移動後、落下傘降下して戦闘する空挺部隊、艦船で移動し敵地に上陸する海軍歩兵及び組ごとに行動する特殊部隊も軽歩兵の類いである。軽歩兵は射距離100〜1000mで対人、対戦車両火力を発揮する事ができる。  機械化歩兵(mechanized infantry)は小銃分隊(班)まで歩兵戦闘車(FV)を固有する。装甲防護力を持つ小銃分隊(班)は激烈な敵の火力とNBC汚染下の戦場を機動し、射距離3000mから敵戦車を撃破する能力があり、乗車戦闘、下車戦闘のいずれにも適している。第2次大戦後の先進諸国軍では歩兵と言えば機械化歩兵師団・旅団・連隊を指し、軽歩兵は特殊な存在になった。1970年代以降、ヘリコプタを固有装備とする空中機動歩兵が登場する傾向も認められる。 ●攻撃の原則  戦闘一般の目的は敵を撃破して、その企図を破砕するにある。このため戦闘部隊が採るべき基本的戦術行動は接敵移動、攻撃、防御、遅滞行動及び後退行動から成る。  その中でも軍隊を進撃させて戦場の敵を捕捉撃破する攻撃のみが勝利を収めるため決定的な役割を果たす。これに対し防御、遅滞・後退行動は将来、予期される攻撃を有利にする条件の作為などに用いる。攻撃は集中、奇襲の各原則の適用及び主動性の確保維持が容易であるのに対し、防御に終始すれば消極退嬰に陥り、主動性を失う。 ●防御の原則  クラウゼビッツの戦争論は「敵を待ち受ける防御は攻撃よりも効率的な戦力発揮が可能」と述べているが、防御専一では敵を撃破し、重要地域を占領するという戦いの目的を達成する事ができない。さらに防御が永く続くと部隊は心理的に落ち込んで行動の自由を失い、形態を不利にする恐れもある。とは言え、現実の戦いは攻撃専一という訳には行かず、例えば下記の状況に直面する部隊は防御を選ぶ方が望ましい。 ★戦場への兵力の集中あるいは増援部隊の来着までの間に準備の余裕を得る。 ★先遣隊又は警戒部隊が主力の戦場への進出を掩護する。 ★作戦部隊の主力が一部をもって攻撃準備間に火力により敵の戦力を減殺して前進の遅滞に努める。 ★主力が主作戦又は決戦正面に兵力を集中するため支作戦正面ないしは重要度の薄い正面の兵力を節約する。 ★主力部隊の翼側、後方地域等の警戒掩護に当たる。 ★敵に対し、我が方の企図、行動及び能力を欺偏して攻撃に有利な状況を作為する。 ●奇襲と集中…戦勝の決め手になる基本的な戦いの原則  戦力に勝る敵軍の不意を衝き、限られた手持ちの戦力を可能最大限に効率的に発揮して勝利を収める「奇襲」は「集中」とともに重要な戦いの原則である。  一般的に見れば戦場で対決する両軍の地理的条件、将兵の士気と訓練の練度、兵器の量と質などが同等であれば兵力の多い方が有利である。したがって古代における戦術は相手に勝る兵力(戦闘員の人数)を戦場に集中する努力に始まった。ところで兵力の少ない軍が兵力の勝る軍と正面から対決すれば勝ち目はない。このため企図心旺盛な劣勢軍の指揮官は敵軍の寝込みを襲い、あるいは戦列の整わない時期に先制攻撃をかけた。  時代が進むと戦列の研究が盛んになり兵器技術も進歩して、時期、場所、要領等、各種条件を生かした奇襲戦法が実行されて来た。例えば相手側の予想を上回る膨大な兵力の集中、画期的な兵器の運用なども歴然たる奇襲である。