シーキャットの主力兵装はレーザーである。 レーザーは、大気や水の存在下では、威力が減衰する。 そのため、よほど高出力でない限り、有効射程は短くなる。 しかし、宇宙空間は真空度が高いため、威力や射程の心配はない。 また、レーザーは直進性が高く、光速である。 ゆえにレーザーの攻撃から逃れることは難しい。 むろん、このようなレーザーの特性は広く知られている。 そのため、宇宙艦艇や宇宙要塞では、対策が講じられているものも多い。 たとえば、絢爛世界の太陽系総軍は、対光熱防壁でレーザーを防いでいる。 対光熱防壁とは、クリスタルプリズムを円錐状に撒き、艦艇を包むことで、敵レーザーを拡散するというものである。 宇宙船や人工衛星のことを総称して、宇宙機と呼ばれる。 宇宙機を対象とした場合、レーザーによる破壊は熱によるものであるといえる。 なぜ熱が原因なのか。 宇宙空間は恒星の強い光にさらされる環境にある。 そのため、光化学的に不安定な素材を外装に使うとは考えにくい。 また、宇宙は真空度が高く、機体は宙に浮いている。 ゆえに大地への熱伝導や大気による熱伝達は期待できない。 また、X線やガンマ線のレーザーも攻撃には不向きである。 なぜなら、宇宙には銀河全体を包む高温のガスが存在し、そこから強烈なX線が放たれているからである。 X線天文学によると、その放射線強度は太陽から出るX線の何十億倍であるとされている。 そのため、宇宙で使用される機器は、X線からの防護策が第一に考えられている。 大量の放射線を被爆すれば、人体に害があることは、言うまでもない。 以上の理由により、レーザーによる破壊は、熱が原因であるといえる。 熱から機体を守るため、民間の宇宙機や宇宙服も対策を取っている。 よって、その方法を流用すれば、レーザーによる被害も小さくできると思われる。 そのため、シーキャットと同等の光学兵器を持つ相手との戦闘も考慮し、その防御手段を研究した。 熱防御のひとつが、太陽光吸収率を下げることである。 前述したとおり、宇宙は空気が非常に希薄なので、熱を逃がすことが難しい。 月面では、昼は摂氏120度、夜は-150度と大きな温度差ができる。 そのため、シャトルや船外宇宙服の外側は、白や金属光沢など、光を反射しやすい色にしている。 光を吸収しなければ、熱エネルギーにならないという理屈だ。 (余談だが、白色は宇宙において視認性の高い色でもある) また、船内温度を下げるため、応急処置としてアルミシートで日除けしたという例もある。 大気圏に突入する宇宙船は、機体表面の温度が上昇する。 機体の持つ運動エネルギーが熱エネルギーに変わるからだ。 むろん、熱をそのままにしておけば、宇宙船は燃え尽きてしまう。 そのため、温度が上がらないよう、対策を施している。 シーキャット開発当時、これをレーザーの防御に役立てることもできると考えられた。 なお、再突入機の空力加熱対策で、代表的な方法は以下の4つある。 1.吸収法 2.アブレーション 3.放射冷却 4.強制冷却 吸収法とは、熱を外側の吸熱材で吸収し、吸熱材と本体の間に断熱材を挟むという方法である。 短時間に強い加熱を受けるが、全体の熱量は小さい場合に用いられる。 吸熱材は高融点で、比熱が大きく、熱伝導率が大きいものが使われる。 アブレーションとは、アブレータで表面を皮膜するという方法である。 アブレータとは、フェノールやシリコン、エポキシなどの樹脂を主成分とする複合材である。 この方法は、強い加熱を長時間受ける場合に用いられる。 アブレータが熱を受けると、炭化、熱分解を起こす。 まず、この分解反応で熱エネルギーを吸収する。 そして、反応の生成物としてガスと液体が作られる。 この液体が熱を吸収して気化し、さらに熱を奪う。 アブレーションは、樹脂の炭化が構造材にまで達しないように設計する。 また、樹脂の亀裂を防ぎ、融解熱を上げるため、ガラスやシリカなどの繊維を混入する。 放射冷却は、弱い加熱を長時間受ける場合に用いられる。 その名の通り、熱放射によって冷却を行う。 熱放射とは、熱を電磁波として放出する現象である。 放射冷却は、機体表面にとりつけた放射外板から熱放射する。 放射外板とは、耐熱性の高い材料である。 放射外板は、空力加熱率と放射放熱率が等しくなる放射平衡温度に達する。 そのため、最大加熱時の放射平衡温度に耐えられる材料を選ぶ必要がある。 最大加熱に耐えられる材質なら、放射外板自体の変質や損耗がない。 つまり、放射外板を再利用できるという利点がある。 強制冷却は、異常に高い加熱を受ける場合に用いられる。 熱を受ける壁面に冷却材を流出させる方法である。 冷却材を流出させる手段は、壁面に小さな穴をあける、壁自体を多孔質の素材とするなどである。 冷却材を供給方法が複雑で、冷却材でペイロードが圧迫されるという欠点がある。 そのため、民間の再突入機に、この方法は使用されていない。 シーキャットは以上の手法から、生産性や整備性、部位別被弾率などを考慮し、最適のものを採用している。 シーキャットには、レーザーとは別に、レールガンも装備されている。 レールガンとは、電磁誘導により弾体を加速して発射する装置である。 装薬で弾を撃つ兵器と比較し、高い初速を得られるという利点がある。 しかし、レールガンの発射速度は投入された電流による。 そのため、高速にしようとすれば、その分、消費電力も大きくなるという欠点がある。 では、なぜシーキャットは、光よりも弾速の遅いレールガンを装備しているのか。 それは光学兵器が有効でない場合を想定しているためである。 たとえば、以下のケースである。 ・宇宙要塞など、気密隔壁内での戦闘  (気体分子にレーザーが吸収、散乱される) ・敵が充分な光学兵器対策を施している 上記のようなレーザーが有効でない状況においても、レールガンは有効に機能する。 レールガンで直接、敵を破壊できない場合でも、レーザー防御機構や気密を崩すことにより、障害を打破することができる。 なお、シーキャットのレールガン装備は、砲甲号から着想された。 砲甲号とは、アースタートルモードの士季号のことである。 この形態では、レーザーとリューンビームを交互に発射することで、複合的ダメージを目標に与えることができる。 むろん、士季号からアイデアを得たとはいえ、TLOにはならないように幾重にも注意を払っている。 レールガンが発射する飛翔体の速度と質量は、宇宙ステーションAGEHAに衝突する平均的なスペースデブリやメテオロイドよりも低くなるように設定されている。 これはレールガンの消費電力が小さくするためである。 もちろん、目標のデブリ防御構造によって、レールガンによる攻撃を無力化させないよう、工夫が加えられている。 レールガンの弾体には炸薬が入っているのだ。 衝突時に炸薬が爆破することにより、破壊力を補っている。 そのため、シーキャットのレールガンは、AGEHAのデブリ防御材「RENGU」を上回る火力を持っている。