宇宙機を作るうえで注意しなければならないものは、スペースデブリとメテオロイドである。 スペースデブリとは、事故や故障で壊れたり、使い終わったりした人工物体である。 単にデブリとも呼ばれる。 また、メテオロイドとは、宇宙に浮遊する隕石や塵のことである。 宇宙はこういったデブリやメテオロイドなどの飛翔体が高速で衝突する危険性がある。 以下は、宇宙ステーションにぶつかる、それらの密度と速度である。 デブリ 平均密度2.8g/cm3 最大衝突速度16km/s 平均衝突速度10km/s メテオロイド 平均密度0.5g/cm3 最大衝突速度83km/s 平均衝突速度20km/s なお、地上で使われるライフル弾の初速はおよそ1km/sである。 これを考えると、デブリ衝突がどれだけ危険であることが分かるだろう。 シーキャットの原型機はターキッシュバン2である。 この機体は水中に潜行できるよう、水圧に耐えられる頑丈な装甲がある。 しかし、前述のとおり、デブリやメテオロイドは非常に大きな運動エネルギーを持っている。 あまりにも速すぎるため、衝突したほうも衝突されたほうも一瞬で融けてしまうほどだ。 そのため、宇宙用のシーキャットに同じ装甲を使うわけにはいかない。 装甲の厚くして防ごうとすれば、質量が大きくなり過ぎてしまう。 ターキッシュバン2の装甲は量産機として優秀ではあるが、宇宙には適さないのだ。 では、宇宙ステーションAGEHAに使われているRENGUはどうだろうか。 RENGUは非常に優秀なデブリ防御材である。 しかし、これにも問題はある。 AGEHAは非常に高い安全マージンで作られている。 そのため、その部品は高度な技術を用し、製造コストも高い。 もちろん、AGEHAに使われているRENGUも同様である。 つまり、量産には適していない。 そこでシーキャットの装甲は、ホイップル・バンパが使われている。 ホイップル・バンパとは簡単に言えば、デブリ用のスペースド・アーマーである。 その原理は、外側の薄い装甲(シールド板)でデブリの衝突エネルギーを吸収するというものだ。 破壊されたシールド板とデブリは、融けて液体または気体になる。 この融けたものをデブリ雲と呼ぶ。 デブリ雲は固体ではないため、内側の装甲(与圧壁)がそれほど分厚くなくても受け止めることができる。 これがホイップル・バンパの原理である。 注意点としては、シールド板は、厚すぎても薄すぎてもいけないことである。 厚すぎれば、シールド板の破片が融け切らずにデブリ雲に混じり、与圧壁にぶつかる。 また、薄すぎれば、逆にデブリが融け切らずに、与圧壁にぶつかる。 厚さが最適であれば、どちらも液体または気体になって飛散する。 ゆえに、与圧壁の損傷は最小限になる。 また、シールド板と与圧壁の距離を長くとれば、デブリ雲はより広範囲に拡散する。 そのため、損傷はさらに小さくなる。 幸運なことに、ターキッシュバン2のオプション装備「11式専用増加装甲」は、スペースドアーマーである。 よって、ある程度のノウハウがあり、生産ラインの流用ができると考えられる。 シーキャットのホイップル・バンパは、スタッフィングによって強化されている。 スタッフィングとは、セラミック繊維やアラミド繊維の織物、アルミメッシュなどを積層したものである。 これをシールド板と与圧壁の間に配置することで、デブリに対する防御を補強することができる。 以上の対策により、シーキャットはデブリに対する防御を高めている。 シーキャットの装甲には黒い部分がある。 これはサーマルブランケットという断熱材である。 銅を含むアルミをポリイミドフィルムに蒸着し、それを積層したものである。 フィルムとフィルムの間には、プラスチックのメッシュをはさんでいる。 これにより、設置面積を小さく、熱が伝導しにくくしている。 シーキャットのサーマルブランケットは黒色だが、これは炭素を入れているからである。 なぜ炭素を入れるのか。 宇宙空間には電子やイオンが飛び交っており、機体の表面に帯電しやすい。 これは電子機器に悪影響を与える危険性がある。 炭素は導電物質で、電気を伝導する。 つまり、電荷が偏りにくい。 そのため、電子機器への影響を抑えることができる。 以上の理由により、シーキャットのサーマルブランケットは炭素を入れている。 シーキャットは、パイロットが圧迫式の船外宇宙服を着ることを想定して開発されている。 圧迫式とは、肌に密着する宇宙服のことである。 圧迫式を使う理由はふたつがある。 ひとつは操縦をしやすくするためである。 大掛かりな宇宙服は、ヒーターや冷却水のパイプなどがあり、動きにくい。 その点、圧迫式はコンパクトである。 これは、圧迫式が温度調整に、人間の発汗機能を利用しているからである。 より具体的に説明すると、圧迫式は空気を通さないが、水は通す物質でできている。 そのため、暑ければ中の人間は汗をかき、外に染み出す。 真空中では液体はすぐに気化するため、熱が奪われる。 ゆえに、圧迫式は冷却水を循環させる必要がなく、小さくできる。 圧迫式を使う、もうひとつの理由は、緊急出撃に対応するためである。 大掛かりな宇宙服は、肌との間に空気がある。 そのため、真空中では膨らんでしまい、動きにくくなる。 これを防ぐため、このタイプの宇宙服は、中の気圧を下げている。 しかし、単純に気圧を下げると、血中の窒素が泡となり、関節に激しい痛みが生じる。 いわゆる減圧症である。 ゆえに、純酸素だけで呼吸を行い、減圧の準備をする必要がある。 これを予備呼吸という。 予備呼吸は時間がかかり、それは宇宙服の気圧が低ければ低いほど長くなる。 その時間は、気圧約30kPaで数時間〜十数時間、約40kPaで30分程度である。 もちろん、気圧が低い方が、空気が宇宙服を膨らませる力も小さいので、動きやすくなる。 しかし、母艦が敵に襲われた場合、30分も時間をかけて出撃しては無事では済まない。 また、乗ってから操縦中に予備呼吸しようとするのも問題がある。 予備呼吸中に、敵の攻撃でコックピットの気密が破壊されれば、減圧症になってしまうからだ。 その点、圧迫式はヘルメット部分以外、宇宙服と肌が密着しており、間に空気がない。 そのため、予備呼吸が必要ない。 以上の理由により、シーキャットは圧迫式宇宙服を想定して開発している。 なお、シーキャットのシートにはサバイバルキットがあるが、この中に非常食はない。 なぜなら、コックピットの気密が破壊されたとき、ヘルメットを脱ぐことができないからである。 真空でヘルメットを脱げない以上、非常食も食べることができない。 そのため、akiharu国の宇宙用ヘルメットには、砂糖水のストローを装備している。 砂糖水は、士季号にも搭載されている、akiharu国伝統の文化である。