自分で言うのもなんだが、私は善良なakiharu国民である。
カマキリ祭には毎回欠かさず参加しているし、
ドラッガーが薬品庫を襲撃するときはいっしょに暴れている。
そんな私であるが、そのときは本当に運が悪かった。

その日、私は、夜の帳が下りた街を一人で歩いていた。
街灯のない遺跡の近くで、きれいな満月を見上げていると、急に首に圧迫感を覚えた。
そして、体が宙に浮いた。
首を縄をかけて吊り上げられていると気づいたのは、灯りがともされたのと同時だった。
地面に黒スーツの女が立っていた。
パニックになりながらも私はその女性に理由をたずねた。
「なぜこんなことをするのか?」と。
彼女はこう答えた。

「あなたの家の目覚ましがうるさかった。主人が安眠できない」

それが私と、後にakiharu国で大発生する“鬼畜眼鏡”との最初の遭遇であった。

──ある一般国民の証言

 

 

 

 

鬼畜眼鏡歴史

なぜ、鬼畜眼鏡なのか…。それはakiharu国の猫妖精たちを見れば分かるだろう。
彼らの職業は…泥棒猫、略奪系考古学者、
そして鞭の達人にいたるまですべてある共通点が存在する。
そう、それは「悪そうな目」
心の在りようは目に表れるもの。必ずしも悪ではない、だが、その心は遥昔から存在していた。
それが「鬼畜」である!

鬼畜眼鏡、彼らはその眼鏡の奥に酷く冷たい瞳を隠している。
冷徹無比な瞳、襟元から袖口まできっちりと着こなしたスーツ、常に携帯している鞭、
そして時折表情を窺えなくさせる眼鏡。
その醸し出す雰囲気はとても近寄り難い…と言いたい所だが。
猫耳と猫しっぽも兼ね備える彼らは、なんだかんだで見ていて和むので、
それなりに人気なのであった。
なお、本人たちはこのことについてかなり不服のようである。

──鬼畜眼鏡ってですか?

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鬼畜眼鏡の朝は早い。

朝起きたらまずは眼鏡の手入れである。

「眼鏡は重要です。何時だって鬼畜じゃなきゃいけないんですから。
そりゃ人ですから時には涙を流したり、同情したりするときもあります。
でも眼鏡で表情を隠して、なんでもないふりをするんです。
そんな時に眼鏡が汚れてるとうまく反射せずに表情が隠せないんですよ」

眼鏡が無いのでそっぽを向き気恥ずかしそうにしていた彼は、
そういうと拭き終わった眼鏡をかけ、再び表情を隠した。

「なにしてるんですか、置いていきますよ」

後ろも見ずに颯爽と部屋を出て行った。

/*/

──本日は神聖眼鏡同盟より鬼畜眼鏡にも詳しい眼鏡評論家のTさん(匿名)にお越し頂きました。
   なお、Tさんは現在指名手配中のため、一部音声を変えてお送りしております。
   先生、よろしくお願い致します。

よろしくお願いします。

──先生、鬼畜眼鏡とは一体どのような存在なのでしょうか?

そもそもは主に知的な男子小学生が源流ですね。
好きな子がいて気になって仕方が無い。
がさつな男の子だったら「ほれほれ、うんこー!」とかいう体当たり的なアプローチも出来るんですが、
ちょっと大人ぶってるのでプライドが許さない。
それなので思い切って言葉を交わすけど、緊張しているので思わずきつい言い方になってしまう。
それが発展すると鬼畜眼鏡になる訳です。
こういった子は同年代の男の子に比べ、知的に見えるので影で女子の人気になったりします。
あるいは大人ぶって生意気盛りなのでお姉さんにからかわれたりもしますね。
格好はスーツなのですが、そこは子供なのでサスペンダーや半ズボンである事が多いようです。
もちろん眼鏡は必須です。

──男の子に多いのですね?

いいえ、鬼畜眼鏡は男女を問いません。
女の子の場合よくツンデレと間違われますが、観察してみると実はデレが無く鬼畜である事が多いです。
ただ、眼鏡を嫌ってコンタクトにしたりあるいは演技でデレて見せたりと
潜在的に鬼畜眼鏡である事が多い為、なかなか判別がしがたいのです。
委員長系によく鬼畜眼鏡がみられますね。
ただ、女の子の場合はきつめに見られることが多くあまり男子の人気にはならないようです。
まあ、子供には早すぎると言う事ですかね。

──なるほど、いるけれども判別がつかないのですね。先生、その後鬼畜眼鏡はどうなるのでしょうか?

鬼畜眼鏡は大きくなるとそのバリエーションをまします。
根っからの鬼畜、普段はニコニコしてるけどさらりと鬼畜、天然鬼畜、仕事の鬼畜、ヘタレ鬼畜などですが
この辺は個人の資質や周辺環境によっても変わりますので、
学会でも未だに統一した学説が確立されていません。

──大きくなった鬼畜眼鏡の性格には個体差があると言う事ですね。

しかし、基本的には男女問わずスーツで眼鏡、一分の隙もない立ち居振る舞い、
見るからに出来そうな切れ者ですから一目見れば分ると思います。

──T先生、本日はありがとうございました。


女子猫士に鬼畜眼鏡アイドレスを着せてみた図

鬼畜眼鏡執事協会設立

「……いいですか、鬼畜にふるまっていいのは、主人の敵と、出来の悪い主人だけです」

──協会での教え 

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さて、この鬼畜眼鏡という職業。
この名前だけでは実際に何に従事して働いているのかさっぱりである。
藩王も新職業作ったがどうすれば良いか悩んでいた。よく考えたら「鬼畜」って…。
しかし、そんな時目に入ったのが「執事」の二文字である。

akiharu国執事協会…それはこの国に何故か以前から存在する組織。
その活動目的は単純明確、至極健全。優秀な執事の育成と業務仲介である。
鬼畜と執事、この取り合わせにピンときた藩王は、
直ちにこの協会の査定の命を出し、これを政府公認組織として認定。
協会の名は鬼畜眼鏡執事協会へ改められ、
以後、数多くの優秀な鬼畜眼鏡執事を輩出することとなる。

akiharu国郊外に佇む謎の洋館…南国風の景色から甚だしく浮いている建物。
ここが協会本部である。
その異様な佇まい、実は外観だけであり、
中に入ってみると内装はどこぞのオフィスビルかと見紛うほどに近代化された施設である。
ここでは新規会員登録、派遣先斡旋などの業務が行われているが、
まだ登録して間もない基礎教育生たちが職業訓練を受ける場所でもある。

一人前の執事として認められるための道は長い。
特にこの協会では「プロ」を育てることを目標として掲げている。
プロとして万能でなければならない、というのがこの協会の持論であり、
よって訓練課程も多種多様なものが用意されている。

登録完了して会員証を発行されたばかりの執事候補たちがまず受けるのは基礎教育である。

礼儀作法から始まり、一般教養に、もちろん家事をこなせるのは当然のこと。
家事といっても、食事の給仕の仕方、おいしい紅茶の淹れ方など、少々特殊な項目も多いが。
また仕事に意外と多いのが子守りであり、これも必須である。
子守りといっても大概は赤ん坊ではなく十代の少年少女を相手にするわけであり、
主な職務は家庭教師である。
鬼畜が子守とは、と思うかもしれないが、
協会の執事はプロであり安心して子供を任せられる保障でもある。
それに少しばかり厳しい方が家庭教師として歓迎されるのだ…。

そして現代執事に欠かせないのが秘書業務である。
通常の事務作業に欠かせない情報処理技能から、
主人の送り迎えの運転まですべて叩き込まれる。
余談だが、彼らは主人のスケジュール管理も任される場合もある。
が、少し彼らはやりすぎるところもあり…
綿密に組まれすぎたスケジュールに押しつぶされたくなければ、
最初からよく言って聞かせておかなければいけない。

戦闘訓練、これもまた重要な項目の一つである。
協会ではボディーガードとしての役割以前に、
何よりも自分の主人を守ることこそ執事の宿命とされている。
主人にどんな危害も加えさせないため…
日夜協会本部中庭では激しい武術の稽古が行われているのだ。
彼らが学ぶのは主に格闘術、武器には鞭が好んで使用される。
これは主人の身を襲った輩の身柄を、
背後に潜む者を探るために拘束して情報を引き出さねばならぬためである。
生かさず殺さず…そして情報を聞き出す際にも鞭は十分に役立ってくれる。
あとは半分彼らの趣味…といわれているが。

一番変わった訓練といえば、感情を殺す訓練だろうか。
もちろんそのもって生まれた鬼畜さを悟らせないためでもあるのだが、
執事として、大げさに嬉しさを表したり、
動揺や危機感を主人に悟られないことは思いのほか重要である。
だがしかし、彼らは、少しばかり素直すぎる。
顔は無表情を装っていても、どうしてもその猫尻尾がくにゃっと曲がってしまうのだ。
尻尾は嘘をつけない。
尻尾をまっすぐに保つことこそ、鬼畜眼鏡執事、最大の難関とも言われる。

上記、様々な個性的な課程のうち必修とされているものを取得した後、
半人前執事たちは実戦投入される。
実際に職場ごとに派遣される実地研修である。
実地研修では、現場に派遣され実際の業務を行う。
既にプロである先輩執事のもとにつき、現場の実際の仕事や雰囲気など、
協会内では学べないことを学ぶ。
執事ならではの気配りはここで培われるのだ。

先輩執事から修了と認められればそこで研修修了となる。
これで晴れて「プロ」の執事の仲間入りである。
新たな執事たちには協会会員証とは別に協会認定執事の証が授与される。
そう、それは眼鏡!
密かに裏で神聖眼鏡同盟と繋がっていると噂される鬼畜眼鏡執事協会であるが、
そのエンブレムが密かに刻印された特注品である。
記念品であり実用性はあまりないが、彼らが一級品であることを示す重要な証であり、
何人もの鬼畜眼鏡たちがこの証を手に入れるために協会の門を叩くのだ。

なお、ここに書いた執事への過程は、これだけ聞いても長い道のりであるとは思うが、
基本どの訓練に関しても鬼畜の名に違わぬスパルタ教育で行われる。
そのため、いくら鬼畜眼鏡が自尊心の強くプライドの高いものであっても、
プロになれず脱落していくものも多いのであった…。
話に聞くと、最近akiharu国内で執事喫茶というものが人気らしく、
密かに国外からも女性観光客が押し寄せているとかなんとか。

南国人
 →個別通過済

猫妖精
 t:要点 = 
  猫耳 : イラスト
  尻尾 : イラスト
 t:周辺環境 = なし

鞭の達人
 t:要点 = 
  鞭 : イラスト
  悪そうな目 : イラスト
 t:周辺環境 = 
  遺跡 : 文章 「
街灯のない遺跡の近くで」 

鬼畜眼鏡
 t:要点 = 
  眼鏡 : イラスト
  鬼畜 : 文章
  スーツ : イラスト
 t:周辺環境=
  家 : 文章 
あなたの家の目覚ましがうるさかった

イラスト : 和志、橘、忌闇装介

 設定文 : 阪明日見、田中申、鴨瀬高次

  編集 : 涼原秋春