──akiharu国の遥か上空、静止軌道に輝く蝶が浮いている。それは翅状に展開された太陽光パネルに映える陽光の煌き。

 

 

 

「akiharu国にはまともな人がいないんですか?生もうひとつー」
「それを言うのは13ターンほどおせえなあ。ほっけも追加でー」
「ははは、それ(まとも)は皆さんの担当じゃないですか。ああ、バターもつけてくださいね」
─とある飲み屋での会話─

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akiharu国、という国がある。
南国の陽気に中てられたカオス国家であり、「ターキッシュバンの国」と言われればあまり多くない人が気づき、
「カマキリの国」と言われればNW中の誰もが目を伏せるかもしれない国である。
そして、ごくごく一部では宇宙開発を進める数少ない国の一つとして知られていた。

akiharu国が開発した恒星間輸送艦「コールドオータム」は、名機の評価を受けながら共和国で使われることなく、極秘裏に帝國に売却された。
いくら優秀な船があろうと港も航路もないのではお話にならなかったのだ。
だが、これは涼原にとって想定の範囲内のことであった。
その真の狙いは恒星間輸送艦から生えるであろう「次のアイドレス」の宇宙関連施設にあったのだ。
そしてその読みは的中し、輸送系統に優れたアイドレスが生え、その中から選ばれたのが宇宙ステーションの建造であった。
こうしてコールドオータムの売却によって得られた潤沢な資金をほぼ総てぶち込む一大国家プロジェクトが始動した。

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「藩王様たちなんかあったんですかね?」
「ボンクラーズ認定がよっぽど嬉しかったんじゃないの」
―絶望的に膨大な資材と格闘する国民たち―

宇宙ステーションに求められたのは物資運搬能力と中継基地としての能力への特化であった。
本格的な艦船運用施設は既に他国が「宇宙港」として開発を発表していたため、物資の長距離輸送能力を伸ばす方針が採られたのである。
余分な機能を極力排することで主目的をより効率的に果たす。akiharu国クオリティはここでも通されたのだ。

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そしてそんな事情とは違うところで喜ぶ東西天狐がいた。なんのことはない、この男SFでたまに出てくるマスドライバー砲がたまらなく好きなのである。
要点の加速器を見た瞬間に設計者に名乗りを上げた彼が何を思い描いたかは言うまでもあるまい。

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基本的な運用は地球などから打ち上げられる物資を受け取り、カタパルトデッキでより遠方の高軌道、火星、外宇宙などに撃ち出すことであるが、
中型程度の船舶までであれば同じ要領で射出可能である。

システムの中心とも言える加速器は超電導機構を用いる、いわゆる「リニアカタパルト」であり、
高初速を得られる半面大型艦艇や秘密戦艦のような超大型艦には対応できないという特徴がある。
これには能力を過剰に上げないようにし、その代わりに安定した信頼性の高いシステムを得ることを好む首脳部の背景が存在する。
カタパルトのレールは超長距離用(外宇宙用)と短距離用(太陽系内用)の二種を備えており、
特に超遠距離用に建造されたレールは最大伸展時で十数キロメートルに達する巨大なものとなっている。
また、高速で飛来するであろう物資を確実に受け取るため、マスキャッチャーも巨大なものになっている。
(全体図で左右に伸びている二本がそれぞれ超長距離用レールとマスキャッチャーにあたる)

こうして着々と設計が進む一方、ある問題が持ち上がった。
建造ポイントとして予定していたラグランジュポイントが他国の開発地点として決定してしまい、
急遽ポイントを新たに選定しなければならなくなったのだ。このあたりは小国の辛い所であったが、施設の重要度から鑑みても仕方の無い采配であった。
隙間産業を好むakiharu国の宿命とも言える。
そうして新たに選出されたのが地表500qの地球低軌道に打ち上げるプランである。
これは地球からの輸送エネルギーや通信時の電力が節約出来、高軌道や他星への踏み石としても都合のよいものであった。
ステーションそのものが常に移動し続けるため、射出には綿密な計画が必要とされるなどのデメリットも存在したが、それを補って余りあるメリットから承認された。

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「宇宙こそが我々の新たな開拓地なのです。踏み出すことをためらうことはありません」
「まあ、公共事業としては悪くない」
―国家事業としての宇宙開発―

宇宙開発ーそれは巨大な経済活動の場を造るという側面を持っている。
いまだ手付かずの資源や土地(宙域)の開発を経済活動とするならば、宇宙は想像を絶する莫大な利益をもたらす宝の海であろう。
宇宙ステーションの建造は、恒星間輸送艦(コールドオータム)に続く宇宙開発の試金石でもあったのだ。
既にコールドオータムが「売却」という形ではあるが実績を残していることもあって、国内の民間企業からはスムーズに協力を得られた。
国営の宇宙開発局も規模を拡大され、独自に他国との協力体制も整えられた。
発注を受けた民間企業はおおわらわである。なにせコールドオータムとは違い宇宙に生活空間を築く、
それも各施設を地上で建造して宇宙に打ち上げ組み立てるという前代未聞の規模であるのだから当然。
中には宇宙とはどんなところかを基礎の基礎から学びなおす必要がある者も多く、初期の開発は遅々として進まなかった。
その状況を打破したのが派遣されたかれんシスターズ(整備士ルック)である。
データベースを介して得たデータを現場の人間に「わかりやすく」変換して伝えられる彼女らの存在も、この計画に無くてはならないものであった。
蓄積された膨大なデータと先人の経験に助けられ、徐々に形を作り上げていく。

施工運営計画は吏族にして風紀委員のメンバーが取り仕切る。彼ら彼女らもまた宇宙に関しては素人に近いものであったが、気合で何とかした。
普段からカオスな国民たちを相手にしている彼女たちにとっては、素直に言うことを聞いてくれる機械のほうが断然扱いやすかったとかなんとか。
工場からは金物を打つ音が絶えず、人々は絶え間なく動き続け、壮大な計画に伴いakiharu国は生産活動の活発化によるゆるやかな発展を遂げようとしていた。

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そして時が流れ、

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akiharu国の遥か上空、静止軌道に輝く蝶が浮いている。それは翅状に展開された太陽光パネルに映える陽光の煌き。
多目的宇宙ステーション「鳳」、落成式を終えた軌道蝶の本稼動である。
管制塔に灯が灯り、オペレータシートに座るかれんタイプの呼び掛けにシステムが目を覚ます。
その様子を一段高い指揮者席で橘が見守る。右を見てもかれんちゃん、左を見てもかれんちゃん、前も後ろも下も上もかれんちゃん。
橘の顔面は土砂崩れを起こしつつ真剣に見守るというなんとも器用な表情である。

「起動シークエンス進行中」

「姿勢制御システム正常に稼動しています」

「空調システム起動」

サブシートに座った眼鏡のかれんちゃんが、かれんタイプ達から続々と寄せられる報告を整理、選定して橘のコンソールに回す。そしてちょっと微笑む。

「大丈夫です。私が、私達があなたを支援します」

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宇宙への道が、拓かれた。

 


 

 

「アゲハ」は無数の機能ごとに区画が分けられており、それらはそのままモジュールとして独立もしている。

ステーション

発着駅。外観上は第七世界でいう「赤レンガの時計台」つき。
宇宙空間に浮かぶ様は冗談のようにしか見えないが、「旅客」に少しでも和んでもらおうという配慮でもある…というのは建前であり、
実際は酒の席で酔っ払った設計者が冗談交じりで言ったことを、デザイナーが真に受けたためにこうなっただけである。
しかしながら藩王は大いに気に入った様子である。

生活空間

居住ブロック。人間などの有機生命体、アンドロイドなど無機生命体の双方に対応。スタッフにはビジネスホテル程度の部屋が割り当てられている。
生活を支える貯水タンクや自家発電施設、食糧貯蔵庫などもここにある。

簡易ドック

船舶、鉄道の補修・改装場。
主にレールでの加速に耐えられるようコーティングや耐久チェックを行う施設であるが、多少の修理程度なら行える。

発電施設

太陽光を取り込む巨大パネル群とコントロール衛星、エネルギーを電力に変換する発電機から成る。
すべてのパネルがパドルにより可動制御を行うことが可能であり、展開時のパネルが動く様子が羽のようであったことから「アゲハ」の名前の由来となっている。

 

各ブロックにはさらに細かい施設が存在し、ステーションの運行を支えている。

 

基礎構造体とデブリ対策

宇宙ステーション外壁を覆うレンガのような物体はRENGUという新素材である。
これはスペースデブリやメテオロイドが衝突しても、ステーション本体が破壊されないために開発された。
真空や太陽風、激しい温度変化にさらされても、従来の防御材と比べ、劣化しにくいという特徴がある。
ちなみにRENGUはRight Engineer Never Give Up(本物の技術者は決してあきらめない)の略であるとされている。

なお、akiharu国には正規の整備員がいない。
整備能力を有するサーラ・サーシャも本職は医師である。
そのため、AGEHAは、できるだけ整備しなくてもいいよう、徹底した品質管理で選別された部品によって構成されている。
安全マージンも航空宇宙工学では異例な高さを誇っている。

RENGUでも受け止められない大きなデブリは、レーザーで破壊し、小さくすることで対応している。
レーザー砲台として利用されているのは宇宙用ターキッシュバン2の試作機である。

試作機と言ってもエンジンやコックピットを積んでいるわけではなく、
現行の水中用フレームに耐圧、耐熱、耐宇宙線、及び気密処理を行った上で最低限の機材を積んだだけの状態である。
無論人が乗って操縦することは出来ないし、動力も施設から有線接続で供給されている。
このターキッシュバン砲台はAGEHA外壁に設置されたレール上をオペレーターの操作で移動する設置型砲台であり、
実際の所わざわざI=Dを流用する必要はなかったのではないかという説もある。
ただ、砲台をわざわざ新規設計するよりはターキッシュバン2を流用する方が低コストだったこと、
ヘイムダルの眼に転用されたことに定評のあるヘリオドールは共通機ではなく、サイベリアンはコストがかかりすぎること、
そして何よりも藩王とスタッフの眼がぐるぐるしていたことにより決定された。

また、砲台、構造体の他のデブリ対策として、ニューワールドではBK警備保障が防犯グッズとして売り出していることで定評のある電磁ネットも設置されている。

 

 

AGEHAのスタッフ(駅員)について

 

施設だけでは宇宙ステーションは稼働しない。
ステーションを実際に運用するスタッフも重要事項である。

駅員の選抜基準

・宇宙医学を含む幅広い分野で教養があること。
・様々な国家が利用するので、異文化に対する適応能力があること。
・医学的に、心身ともに健康で、業務に影響のないこと。
・心理学的に、業務に従事できるだけの協調性や情緒安定性、意志力があること。
・複雑な宇宙ステーションを理解し、対応できる素養があること。

駅員の服装

宇宙では水が貴重であり、ステーション内には風呂や洗濯機の使用が制限されている。
そのため、汗もかいても匂わないようにしたほうがよい。
水分を吸うと服が重くなるため、速乾性は高いほうがよい。
また、無重力では服が浮かび上がり、風通しがよくなるので、保温性も重要である。
これらを考慮し、宇宙ステーションでは仕事用、運動用など目的別に服が作られている。
着心地がいいという感想も多く、近々地上での販売が予定されているらしい。

食事

宇宙食といえばレトルト食品や缶詰、フリーズドライ食品が連想される。
特にakiharu国といえば、ツナ缶の代用品としてピラニア缶を作るぐらいなので、そのイメージが強いだろう。
しかし、宇宙ステーションでは、生の野菜や果物がよく食べられている。
これはakiharu国の植物の生命力が高いため、収穫後、特に加工しなくても長期間保存できるからである。
ただし、ときどきバナナが暴れだすことがあるので、定期的に食品に当身を食らわせる必要がある。
なお、キノコは胞子を出し、機械を故障させる危険性があるため、加工されている。

持ち物

火災や中毒、負傷や疾病の原因となるものは持ち込むことはできない。
宇宙ステーションは換気ができないため、匂いの強い化粧品も禁止である。
宇宙酔いや痛み止めの薬(無重力下では椎間板が伸びて腰痛になることがある)、
骨吸収抑制剤(無重力では骨が溶け出し尿路結石になりやすい)などは常備されているので用意する必要はない。
その他、個人的な薬は事前に安全審査がいる。

体力トレーニング

宇宙は無重力であるため、骨が溶け出し、筋肉が萎縮してしまう。
それを防ぐため、宇宙ステーション内にはトレーニング器具が設置されている。
エルゴメーターと呼ばれる固定式自転車やトレッドミルというランニングマシーンなどがそれである。
もちろん、重力がない宇宙で地面を蹴れば、容易に浮かび上がってしまうので、ランニングの際は、ゴムやバネで体を固定して走っている。
余談だが、無重力下では床と天井、壁の区別がないため、地上では狭く感じる部屋でも宇宙では広く使うことができる。

これらの基礎事項を満たした上で、
AGEHAでは事件や事故を未然に防ぎ、また、仮に起きた際にも、その重要度と緊急性を適切に捉えられるよう、駅員は事前に入念な訓練を行っている。
また、実施できる有効な対策が見つけられるよう、地上との通信も密に行うよう決められている。
ステーション内外の人間が協力することで、どういう状況に陥っているのか、より客観的に、かつ速やかに判断できるからである。
このとき、実際に現場で行動する駅員など個人の責任問題にしないという取り決めがされている。
これはステーションが復旧不可能な場合、駅員たちが躊躇なく脱出できるようにするためである。
脱出艇はステーション内に複数機用意されており、整備の都合で地上に降ろす際も、最低1機は残されることになっている。
なお、脱出艇がどこに不時着しても生活できるようサバイバルに必要な道具は一通りそろっている。
AGEHAの運用はこのような頼もしい駅員たちにより行われているのである。

 

T16末〜T17に行われた復興について

T16末、遂に復興が開始されたakiharu国。
それは地上施設のみならず、宇宙においても変わらない。
宇宙から敵が迫る情勢下であり、戦略拠点である宇宙ステーションの再建は共和国としても急務であった。
しかし、akiharu国は未だ卵から国民が孵化し始めた段階であり、宇宙に手を伸ばす余力は、まだない。
この情勢下で行われた再建造は、必然的に高い科学技術と建築技術を持つFEGと協力して行われることとなった。
さて、この再建に伴う改設計は、もちろん共和国にとってのメリットも同時に生み出していた。
かつての建造時、宇宙ステーションが想定していた発着艦は帝國の宇宙艦のような「普通の宇宙艦」であった。
しかしT16現在、共和国の宇宙輸送戦力はFEGによって設計された、FEGボウルドカーンを想定されている。
もちろんFEGボウルといえども、大気圏突破時に投擲加速するというだけで、
宇宙空間に出てからは通常の宇宙艦と運用はほぼ変わらない。
しかし、その形状──つまり、リング型推進装置を配した球形艦という設計は、
従来の電磁加速カタパルトで再加速するには決して向いているとは言えず、
従って施設自体の改設計時に、球型宇宙艦に対応した新モードを追加することとなったのである。
──これによって盤石となった共和国の宇宙体制が、新たな未来を作り出す。
それは、再建に携わった誰もが胸に抱いた思いであった。


要点・周辺環境

 

t:要点 = 

駅 : 本文

軌道 : 本文「akiharu国の遥か上空、静止軌道に輝く蝶が浮いている

加速器 : カタパルトイラスト及び本文

 

t:周辺環境=

宇宙 : トップイラスト

 

製作スタッフ

イラスト : 忌闇装介(AGEHA施設デザイン)、涼原秋春(カタパルト、砲台ターキッシュバン2)

設定文 : 東西 天狐(メイン設定)、田中申(駅員周り、建築資材設定)、涼原秋春(砲台、復興)

編集 : 涼原秋春

協力 : フィールド・エレメンツ・グローリー