逆転の低コスト構造

帝國の新鋭機、エバーライトが腕部を武装コンテナと割り切った構造にしていたのは記憶に新しいところだと思われる。
また、それ以外にもヘリオドールなど、宇宙機は『手』のない構造であることが多い。
これはある種当然のことで、障害物を直接手で排除したり、作業することのある地上機と違い、
宇宙機にとって腕部とは武装保持ステーションでしかないため、普通に考えれば手指の設計は無駄でしかないのだ。
その一方でシーキャットは五指を備えたマニュピレータとなっている。これは何故だろうか。
それは、『腕部はターキッシュバン2の物をそのまま使用しているから』である。
シーキャットへの改修にあたり、装甲や推進器などは全身のハードポイント部に取り付けられる形で取り付けられたのだが、
肩部増設ユニットを腕部と独立稼働させる設計であったため、腕部に関しては新たに装備するパーツが無く、そのまま使うこととなったのである。
もとより宇宙機にとって腕部とは武装保持のためにだけ存在している部位であり、剛性も精密性も向上させる必要がなかったのだ。
結果として、五指を備えない形に再設計・新規生産するよりも在庫をそのまま使った方が安い、という状況が生まれたのである。
シーキャットにはこのような箇所がいくつか存在し、戦闘に直接寄与しない部分は在庫パーツを有効利用することでコストダウンを計っているのである。

コックピット
コックピット
右図はシーキャットのシート配置図。前方にパイロット席、後方にコパイロット席が並んで置かれている。
9m級に3人詰め込んでいるため、居住性は決して良いとは言えない状況であるが、
古参パイロットは「なあに、アメショーやペルシャに3人乗るよりはマシさ」とコメントしている。

シーキャットのコックピットは、微小重力でも操縦しやすいように設計されている。
微小重力下では、血液やリンパ液など体液が上に移動する。
そのため、重心は体の上の方に移る。
結果、足が細くなり、胸や顔が膨らむ。
コックピットの設計には、こういった体型の変化を考慮する必要がある。

また、重力下では重さがあるため、腕を下にぶらさげる形になる。
微小重力では、腕が下に引かれないため、肩が上がり、肘を曲げた形になる。
その結果、手が胸の高さまで上がることになる。
頭は重い脳があるため、重力下では首をまっすぐに保った方が支えやすい。
しかし、微小重力下では重さを支える必要がないため、首を下に傾けた形になる。
そのため、視線も下向きになる。
つまり、レバーやスイッチは地上よりやや上に、ディスプレイなどの表示装置は少し下に配置したほうがよい。

重力によって物が固定されている地上とは違い、無重力空間では無重力ならではの問題が発生する。
ねじを回そうとすると体のほうが回転し、スイッチを押そうとしても跳ね返されるといったことが起こるのだ。
そのため、操作の際、シートベルトなどで体を固定し、反力、反モーメントを取れるようにしている。

以上のように、シーキャットのコックピットは人間工学を考慮して設計されている。

なお、シーキャットのシートにはサバイバルキットがあるが、この中にはなぜか非常食に混じって砂糖水が置かれている。
砂糖水は、士季号にも搭載されている、akiharu国伝統の文化である。
……というと聞こえはいいが、困窮した藩王が「それでも甘い物は食べたい!」という欲求の果てに砂糖水をすすっていたという逸話を元にした伝統ギャグである。
しかしまあ、糖分を体に供給するのは脳を活性化させることにつながるため、なんだかんだで採用されてしまっている。

宇宙での電子機器防御

宇宙は電子機器に対し、厳しい環境である。
たとえば、放射線。太陽風と呼ばれるプラズマ流や銀河系から到来するガンマ線などである。
強い放射線は電子部品や半導体素子に悪影響を与える。
代表的なものを以下に記す。

・シングルイベント効果
・トータルドーズ効果
・内部帯電効果

シングルイベントとは、強い放射線の透過によって起こる。
シングルイベントはラッチアップとアップセットに細分化される。
ラッチアップとは、過電流によって素子に損傷を与えるものである。
また、アップセットとは、メモリ素子のビット反転など、回路の誤作動を起こすものである。

トータルドーズとは、放射線の通過が累積することで起きる素子の損傷を与える効果である。
放射線の入射によって吸収したエネルギー量の総和もトータルドーズという。
放射線は、原子を電離させたり、結晶格子に欠陥を生じさせたりするのだ。

内部帯電とは、高エネルギーの荷電粒子によって起きる現象である。
荷電粒子がプリント基盤やケーブルなどの絶縁物に侵入して、内部に蓄積される現象だ。
内部帯電によって絶縁物の内部に強い電場が作られると、絶縁破壊を起こす。

放射線の影響だけでも、これだけの故障や誤作動の原因がある。
また、宇宙は熱の問題がある。特にセンサ類は熱に弱い。
そのため、宇宙機に使われる電子部品は、放射線や熱に強い宇宙用のものが好ましい。
しかし、宇宙用部品は市場規模が非常に小さい。
現在のところ、宇宙に行くのは軍人や研究者などの一部であり、大多数は地上で暮らす。
当然、彼らが使うテレビやパソコン、家電製品などは、耐放射線性を考慮していない。
そのため、民生部品の高性能化、小型化が進む一方、宇宙用部品がそれについていけないという事態になっている。
宇宙用の部品は特殊であり、全ての藩国のメーカーが対応しているわけではない。
本機体は各藩国に設計図だけを送り、現地工場でライセンス生産する事を前提としているため、これは由々しき事態である。
そこで、シーキャットは民生部品を宇宙環境でも使用できるよう、放射線を遮蔽する配置などを工夫している。

民生品は市場が大きいため、競争により良品が多い。
宇宙用と比べ、高機能なうえ、小型で省電力である。
小型は軽量化につながる。また、省電力は発電系を小さくできるため、これも軽量化につながる。
シーキャットは民生品を使うことで低コストと性能を両立しているのだ。


装甲の構造

シーキャットはターキッシュバン2の全身に追加装甲を着せたような姿となっている。
ここではその構造について説明する。

宇宙機を作るうえで注意しなければならないものは、スペースデブリとメテオロイドである。
スペースデブリとは、事故や故障で壊れたり、使い終わったりした人工物体である。
単にデブリとも呼ばれる。
また、メテオロイドとは、宇宙に浮遊する隕石や塵のことである。
宇宙はこういったデブリやメテオロイドなどの飛翔体が高速で衝突する危険性がある。
以下は、宇宙ステーションにぶつかる、それらの密度と速度である。

デブリ
平均密度2.8g/cm3
最大衝突速度16km/s
平均衝突速度10km/s

メテオロイド
平均密度0.5g/cm3
最大衝突速度83km/s
平均衝突速度20km/s

なお、地上で使われるライフル弾の初速はおよそ1km/sである。
これを考えると、デブリ衝突がどれだけ危険であることが分かるだろう。

シーキャットの原型機はターキッシュバン2である。
この機体は水中に潜行できるよう、水圧に耐えられる頑丈な装甲がある。
しかし、前述のとおり、デブリやメテオロイドは非常に大きな運動エネルギーを持っている。
あまりにも速すぎるため、衝突したほうも衝突されたほうも一瞬で融けてしまうほどだ。
そのため、宇宙用のシーキャットに同じ装甲を使うわけにはいかない。
装甲を厚くして防ごうとすれば、質量が大きくなり過ぎてしまう。
ターキッシュバン2の装甲は量産機として優秀ではあるが、宇宙には適さないのだ。

そこでシーキャットの装甲は、ホイップル・バンパが使われている。
ホイップル・バンパとは簡単に言えば、デブリ用のスペースド・アーマーである。
その原理は、外側の薄い装甲(シールド板)でデブリの衝突エネルギーを吸収するというものだ。
破壊されたシールド板とデブリは、融けて液体または気体になる。
この融けたものをデブリ雲と呼ぶ。
デブリ雲は固体ではないため、内側の装甲(与圧壁)がそれほど分厚くなくても受け止めることができる。
これがホイップル・バンパの原理である。

幸運なことに、ターキッシュバン2のオプション装備「11式専用増加装甲」は、スペースドアーマーである。
よって、ある程度のノウハウがあり、生産ラインの流用が可能であった。

シーキャットのホイップル・バンパは、スタッフィングによって強化されている。
スタッフィングとは、セラミック繊維やアラミド繊維の織物、アルミメッシュなどを積層したものである。
これをシールド板と与圧壁の間に配置することで、デブリに対する防御を補強することができる。

以上の対策により、シーキャットはデブリに対する防御を高めている。
当然の事ながら、これらの技術は敵の爆雷によって飛散する破片や、物理弾頭に対しても有効である。
デブリ対策として書かれてきたこれらは、そのまま戦闘時でも機能するのだ。
またそれに加え、宇宙戦で主力となるレーザー対策として、装甲には合成樹脂成分による耐熱コーティングが表面に施されている。


シーキャットの装甲には黒い部分がある。
もちろん塗装で黒い部分や、逆に別の色にしている箇所もあるが、これはサーマルブランケットという断熱材である。
シーキャットの武装は、レーザーやレールガンなど、発熱の大きいものが多い。
この内部発熱の問題に対処できるよう、シーキャットでは熱制御機器を各所に装備している。
ここで使われているサーマルブランケットは、
銅を含むアルミをポリイミドフィルムに蒸着し、それを積層したものである。
フィルムとフィルムの間には、プラスチックのメッシュをはさんでいる。
これにより、設置面積を小さく、熱が伝導しにくくしている。

シーキャットのサーマルブランケットは黒色だが、これは炭素を入れているからである。
なぜ炭素を入れるのか。
宇宙空間には電子やイオンが飛び交っており、機体の表面に帯電しやすい。
これは電子機器に悪影響を与える危険性がある。
炭素は導電物質で、電気を伝導する。つまり、電荷が偏りにくい。
そのため、電子機器への影響を抑えることができるのだ。
以上の理由により、シーキャットのサーマルブランケットには炭素を入れられている。
その他にも、シーキャットにはサーマルルーバ、ヒートシンク、ヒートパイプといった熱制御機器が使われている。