「忌闇さんの意見には同意できませんな!」
「そっちこそ、少数派弾圧だ!断固抵抗するぞ!」
「よろしい、表で決着を付けようじゃありませんか」
「上等だ、吠え面かかせてやる」
ドアを荒々しげに開けると鴨瀬と忌闇はおのおのの獲物を持って距離をとる。
そんな二人を忙しげにスケッチする橘。
話の発端は1時間ほど前の事である。
「えー橘・忌闇ご両人に集まっていただいたのは他でも有りません、
執事喫茶漢組では小笠原フェアを予定しております。
そこでお二人がデザインされた制服を使用したいと思いまして」
鴨瀬の言葉を聞いた忌闇がそろそろと手を上げる。
「そう言う事なら一つ提案があるんですけど。水着メイドなんてどうでしょう?」
「水着メイドですか?」
鴨瀬が怪訝そうな顔をする。
「そう!小笠原と言えば東洋のガラパゴス!白い砂、青い海、白い雲、青い空、焼けるような太陽、ならば得られる結論は唯一つ、それは水着!
しかし、今回は執事喫茶と言う事で要所要所にフリルをあしらい、水着メイドとしてお客様に応対するんですよ!」
熱弁のあまり握りこぶしをテーブルに叩きつける忌闇。それとは対照的にため息をつき、首を振る鴨瀬。
「フリルが付いていれば、メイドですか?嘆かわしい。
そもそもメイド足る者、身嗜みを整えみだりに人様に肌を見せないのです。
ゆえにメイドは何時いかなる時も、ピッと折り目の付いたロングスカートであるべきなのです。」
スケッチブックに向かっていた橘もボソリと言う。
「うむー露出度低いの萌えとしては鴨さんについていくぜ、あえて着せてからびりびりにするんだ…… 」
かくて、話は冒頭に戻る。
固唾を呑む両者の間に一陣の風が吹く。
次の瞬間、互いに後ろにジャンプ、物陰に隠れると同時に地面に伏せる。
鴨瀬は背中からバズーカを、忌闇は狙撃銃を取り出す。
そのまま互いにしばらく打ち合うが、互いに後ろに下がったのでアウトレンジからの射ち合いになってしまった。
「けっ、チキンが」
忌闇は忌まわしげにつばを吐くと、目ぼしいな障害物を探す。あの岩陰がよさげだ。
這いつくばった状態から片足を引き寄せる。バズーカの爆音が収まったころあいを見計らい、「往生せいやーーー!」と叫びながら、岩陰目掛け走り出した。
鴨瀬は(往生せいやって移動しながら叫ぶか?)と思いつつ、移動中の忌闇目がけトリガを引く。
次の瞬間、89mmの砲径から靴下が飛び出る。忌闇を襲うがこれを何なく避け岩陰に隠れ這いつくばる。
一方その頃、度重なる爆音に心配したリズが橘に話しかける。
「あの、装介は……?」
「表で射ち合いやってるぜー」
一心不乱にスケッチブックに向かっていた橘は気もそぞろに返事をする。
「打ち合いってどういう事ですかっ!」
襟元を握り、がくがくと橘を振るリズ。
「うー?実はかくかくしかじかでー」
面倒くさげに事の顛末を話す橘。それを聞くやいなや外へと駆け出すリズ。
しばらく遠ざかっていくリズを見送った後、再びスケッチブックと向き合う。
鴨瀬は弾の方向からの狙撃地点の発覚を恐れ、別の狙撃地点へ移動。
忌闇はこれを逃さず、狙撃銃のトリガを引く。「キャンいわしたるー!」
「キャン!」
練習用のゴム弾が命中し、文字通りキャン言わされる鴨瀬。
「もう一撃!」「その前にこちらの攻撃を喰らいなさい!」
立てひざを突き、バズーカを発射。発砲直後で身動きの取れない忌闇はソックスの山に埋もれ、意識が薄れていく。
「別の世界に目覚めてたまるかっ!」
遠のきかけていく意識を必死で押さえ靴下の山から抜け出し狙撃銃を構え鴨瀬を狙う。トリガを引くと共に、鴨瀬がヒョウと叫びS字にくねり、その脇を弾が掠めていく。
「止めてください!」
二人の間に、リズが割って入った。頭にはなぜかカチューシャ、体にはバスタオルを巻きつけている。
「リズ、止めるんじゃない。これは男のロマンとプライドをかけた戦いなんだ!」
そして、何時だってくだらない物だとも言う。
「わかってます!その為に来たんですから……」
顔を赤らめて、バスタオルをするすると取っていくリズ。
その下から競泳水着が顔を覗かせる。肩にはフリルが施されており、胸元は白タイ、見るのもまぶしいしなやかな肢体はエプロンによって隠されている。濃紺の水着とリズの銀白の毛や白いフリルが好対照を織り成す。
「これで・・・・・・どうですか?」
銀盆を片手で支え恥ずかしげにポーズを決めたリズが二人に尋ねる。
「おおっ、これは眼福、眼福。忌闇さん自分が間違ってました。申し訳ない。これは正式採用です」
「そうでしょう?いや、わかっていただけて何よりですよ、あっはっは」
仲良く握り合い、仲直りをする二人であった。
「ささっ、何時までもそんな格好をさらしてないで」
鴨瀬がバスタオルをかけ直す。
「そー言えばリズ。前から可愛いと思ってたけど……」
忌闇の言葉を聞いてさっと顔を赤らめるリズ。
「お前、いくら可愛いからって男でそんな物持ってたら変態だよ?」
先程とは別の意味で顔を赤らめるリズ。持っていた銀のトレイの角で忌闇の顔を一閃。同時に何かの折れた音がする。
「装介のバカッ!知らない!」
スタスタと店へ入っていくリズであった。
なお、鴨瀬はすっかり失念していたようだが執事喫茶と言うからには男しかおらず、無駄になった女性用制服の処理に頭を抱える事になる。