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ワニ捕れたよっ!

ワニ捕れたよっ!

作:清白

 早朝、緊急で藩王涼原秋春に、橘と清白が呼び出された。
 ピラニアも怪鳥も捕獲し、スイカも大量にとれたことだし、もう食料は充分だろうと安心していた矢先の事である。
 「さて、君達にやってもらいたいことがあるんだけど」
 「なんでしょうか?」
 「狩りだ」
 「……は?」
 「狩りだよ。ハンティングだよ」
 「いや、だって僕たち肉弾戦苦手だし」
 「そうっすよ。何でパイロットが地上で戦わなくちゃいけないんすか。大体食料はもう足りてると思ってたんですが?」
 「いや、実はまだまだ必要なんだよね。それに、面白そうじゃない、ワニと戦うなんて。ほら、今なら、このキノコあげちゃうよ!?」
  黄色に輝くキノコを渡される2人。藩王愛用のキノコ。食べると、目がぐるぐるになるとか何とか。
 「では、パイロット諸君っ! 頑張って、ワニを捕らえてきてくれたまえ!!」
  
 ぶーぶー不満を言いながら、ジャングルの中に入っていく橘と清白。
 「とはいっても。どうやってワニなんか倒せば良いんだろうね。何かいい案でもあります?」
 「ある訳ないじゃない」
 「そうですよねぇ……。清白さんに聞いても無駄ですよねぇ……」
  ジャングルの中をとぼとぼと歩いていく2人。しばらくすると、河が見えてきた。
 「あっ、清白さん。河が見えてきたよ。あそこにワニっていそうじゃありません?」
 「そうねぇ、試しに石でも投げてみようか」
  おもむろに、落ちていた石を拾い上げ、河へと投げ込む清白。どぼん、という鈍い音と同時に水しぶきが上がる。
  突然、ざっぱーん、という音とともにワニが出現した。大口を開けて、こちらを睨んでくる。
 「わっわっ、ワニですよっワニっ!! ほら、清白さんが石なんか投げるから、あんなに怒ってるっ!!」
 「な、なんだ、君は。全部、僕のせいにするのかい!?」
  慌てて後ずさる2人。じりじりと間合いを狭めるワニ。
 「ほら、橘さん。ここはアレだよアレ。君のドラッガーとしての本領を見せる時が来たんじゃないかな」
 「いやですよっ! あんなキノコ食べるのは。そんなこと言う清白さんだってドラッガーじゃないですか。
 頑張ってください。僕は影ながら見守ってますから」
 「……何とも、頼りないパートナーだねぇ」
 「どっちがですかっ!」
  口論をしている間に、ワニは2人のすぐ傍まで近づいていた。その事にいち早く気がついた清白は、すぐさまダッシュ。
 「ははは、ここは任せたよ橘さん。僕は、別の方法を見つけることにするっ!」
  そういい残し、笑いながら走り去っていく清白。その姿を呆然と見つめながら、橘は1人残された。
 目の前には鼻息の荒いワニ。……や、石を投げたのは僕じゃないよ、と呟きつつ、橘は頭をフル稼働させる。
  そうだ。これを試してみるしかないか……。
  閃いた橘は、懐から何やら怪しげな物体を取り出す。
 それは、マスクだった。
 しかも、ひしゃげた鼻にただれた皮膚。剥き出しになった牙と、誰もが悪趣味と声を揃えるであろう代物だ。
  それを被った橘は、両手両足を地面に付け、威嚇のポーズ。
 「ぼええぇぇぇぇぇ! ぼええぇぇぇぇぇっ!!」
  地獄の底から湧き上がってくるような唸り声を橘は上げる。その異様な雰囲気に、ワニは怯む。
  橘が一歩出る。ワニは一歩下がる。橘が一歩出る。ワニは下がる。出る、下がる、……。
  ついに、ワニは戦意をなくしてしぶしぶ河へと帰っていった。
 やった、橘の勝利だっ! 大きくガッツポーズ。
 「さぁ、こうしちゃいられない。清白さんを懲らしめないと」
  自力でワニを追い払った達成感から、うきうき気分の橘はスキップで清白が逃げていった方へと向かっていった。
 
  その頃、清白は絶対絶命の危機に陥っていた。
 あのワニからは橘を囮として逃げられたまでは良かったとしても、逃亡の最中、また別のワニの尻尾を踏みつけてしまったのだ。
 「……あはは、こいつは困ったね」
  怒り狂うワニから逃げ惑う内に、清白は河へと入りこんでしまった。
 さっさと陸に上がろうと足を踏み出そうとしたその時、周りから数個の黒い影が自分に向かって来ているのに気がついた。
 最悪な予想が脳裏に浮かぶ。
  ざっばーんと音を上げて登場する、ワニ4体。どいつこいつも腹を空かせてそうだ。
 「やっぱりね」
  あはは、と乾いた笑い声を上げる清白。こんな状況からどうやって生還しろというのかっ! 無理だ無理だ。誰か助けに来てくれないかなぁ……。
  やっと、清白を発見した橘も、その光景を見て、動揺する。
 「あー……、これは見なかったことにした方がいいよね」
  木の陰に隠れて、とりあえず成り行きを見守る橘。
 当然ながら命を掛けて清白を助けようとする気など毛頭ない。
 それどころかこれはいい絵が描けそうだ、とスケッチブックを取り出し、どきどきしながら筆を握る。
 ……橘の芸術家としての魂が熱く燃え始めてきた。
 
  そのとき、遠くから地鳴りのような音が聞こえてきた。
 地震? いや、違う。それよりは随分と軽い。
 連続しているわけではなく、一定のリズムで大地が揺れる。
 どたどた、どたどた、……足音か?
 「阪さーん、綸子さーんっ!! 鳥ーっ!! 大きい鳥見つけましたよぉーっ!!」
  鼓膜が破れるかと思うほどの大声を上げながら、筋肉、もとい東西天狐が突進してくる。
 清白やワニになど、目も向けず、ひたすら前方を見つめ突撃。
 その頑強な足で、ワニは踏みつけられ、蹴飛ばされる。
 運よく生き残ったワニも恐れをなして水の中へと逃亡。
 一瞬にして見事ワニの軍団を粉砕した。
 「あれが噂の東西天狐か……」
  清白が呆然と呟く。1人の同胞の命を救ったことにも気付かず、東西天狐は走り抜けていった。
 残されたのは、ワニの死体、死体……。
 「うん、とりあえずはワニ獲れたから良かった、かな」
 
 「す、凄いぞっ。これは凄い絵が描けそうだ」
  既に橘は目の前の光景を見てはいない。頭の中に浮かぶイメージを頼りに、橘は一心不乱にスケッチブックに筆を走らせていた。
 みるみる内に、白い画用紙が色で染まっていく。ああ、素晴らしいっ……! これぞ、僕が望んでいた光景だ。
 「や、橘さん」
 「げげぇ。清白さんっ!! 生きてたんですか!?」
 「当然じゃないか。君は何を見てたんだい? まぁ、いいや、とにかく一緒にこれを運んでくれないかな?」
  清白は指さす方向には、山積みになったワニ。その成果に、橘は目をパチクリする。
 「……これ、全部清白さんが?」
 「はは、当然じゃないか。僕は、やるときはやる男だよ」
  にやにやと笑う清白。いぶかしむ橘。だが、とりあえずは2人で協力して、居住区までワニを運ぶことにした。
 
  こうして、何とかパイロット部隊もワニを手に入れることが出来たのだった。
 
  収穫物:ワニ

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