「ロマンと心意気だけじゃ食っていけないのか!?」
「ロマンで食う=砂糖水を飲んで我慢する、の意だ!」
──執政と藩王の会話
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食料増産! それが目前に差し迫った問題であった。
決算を終え、それでもまだなおakiharu国には人数分程度の食料があったため藩王・涼原秋春は安心しきっていた。
だが、それもつい先程までのことだ。更に15万t増産せよとのお達しが公布されたのだ。
全く無理を言ってくれると思う。ただでさえアメショーのテストフライトで生命の危機がかかっているというのに。
無理矢理テンションを上げて皆に食料調達を呼びかけると、士気に溢れた我が国の国民は各地へと散らばっていった。頼もしいことだと思う。
……ただし猫のように気まぐれで、飽きっぽい性分の国民性を持つ者が多いので、いまいちその成果に関しては不安が残るのだが。
──やはり、僕も何もしないでいるわけには行かないな。
足下でごろりと丸まっていた王猫ふしゃ・ふしゃーるを抱き上げると、秋春は藩国内にあるとある地点へと向かった。
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南国の眩しい日差しが届かぬ地下。空気もひんやりとして、今だけはいつも場違いだと側近に言われるスーツ姿もちょうど良い。
暴れるふしゃをなだめながら辿り着いたのは旧・akiharu国アイドレスハンガー。第5世界に脱出する以前に使われていた施設である。
そしてここには、流星号が整備もそこそこに、最後の出撃の時のまま残されていたのだ。
無論、実戦に耐えられるような状態ではないが……
「藩王陛下、ここで何をする気なわけ?」
誰もいないと思っていた物陰から、声が飛んできた。
「……4さんか。何か回廊突破作戦の時を思い出すなあ」
そこにいたのは、執政の444であった。藩王と共に、現在のakiharu国の基礎を作った側近である。
アプローの涙事件の際は毎回このハンガーまで呼び出されるが、いつも藩王出撃の間、留守を任されていた男でもある。
「で、4さんこそ何でここに?」
「決まってるじゃないか」
胸を張る444。
「流星号を加工して食えるようにするんだ!」
「食えねえよ!」
「えー」
心底不満そうな444。
「えーじゃなくて!」
「だって人型戦車の人工筋肉は食えるんだろー?」
「RBは全部金属だよ!」
「そこはほら、ロマンとか、気合で」
ぐっと拳を握りしめる444。じゃあお前はそれ食えよ、と言いそうになるのを秋春はぐっとこらえて、444の肩に手を置いた。
「……4さん。ロマンじゃ腹はふくれないんだ」
……あれ、何で涙が流れるんだろう? GPOのドラマCDとか限定版を買った結果食費が無くなったことを思いだしたからかな? 砂糖水と白米で過ごすのはひもじかった。
「じゃあ陛下は何でここにいるのさ?」
444のツッコミに我に返る。そう、こんな所で悲しくなっている場合ではなかった。食料を調達しなければ。
眼鏡を指で押し上げ、にやりと笑う。
「漁だよ、漁」
いつの間にか猫士用シートにもぐりこんでいたふしゃが、その通りだとでも言うようにふにゃあと鳴いた。
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akiharu国の流星号は地上に適していない性能だった。そのため、地上で土木工事や開墾作業をするのには向いていない。
ではどこに適しているのかというと──水中である。
国内にいくつかある沼、その一つに巨大な怪魚が潜んでいるという噂が以前から流れていた。
また、以前温泉採掘に向かわせ、手当たり次第に川縁を掘って帰ってきた国民、忌闇装介がそのような影を見たような見なかったようなというよくわからない報告もしていた。
噂、しかもお気楽な猫歩兵の言うことをを真に受けるのはどうかと思わなくもないが、藁にもすがりたい状況下ではある。
今のakiharu国の国力では食料生産地を新たに建造するのは至難の業だ。やるしかない。
最悪、網で沼の中の魚を根こそぎ捕まえて帰ろう。
そう考えていた。
トポロジーレーダーを起動する。
──光点、1。
なあんだたった1匹だけかあと笑いそうになり、直後戦慄する。
レーダーに反応するほど大きな反応があるのだ。どうやら噂は事実だったらしい。
レーダーを確認。だが遅かった。赤と青の三角形は見る間に近付き、一つになろうとする。回避機動は間に合わない。もう駄目か?!
しかしこれはRB戦ではない。衝突してもシールド突撃を喰らうわけではない。ただ単純に、質量打撃を喰らうだけだ。
だがそれでも、要整備状態だった流星号には致命的なダメージをもたらす。
みしみし、とフレームが悲鳴を上げた。
光学センサー起動。敵対象はRBよりでかい怪魚。なんてデタラメ。
しかも大きな口を開けて更に突撃を敢行してくる。
つまり、こちらを喰おうとしている。
ああもう、流星号は喰えないんだよ!
どうする? シー突で応戦か? いやそれはまずい。喰う部分が消滅してしまう。第一ここは火星じゃない。使えるかどうかわからない。
じゃあ、肉弾戦しかないな!
急速上昇、反転。怪魚の大きな目にパンチを叩き込む。サイズは大きいといえど、しょせんは生物。RBの拳で貫けないほど固くはない。
片目を潰され、暴れ回る怪魚。巻き込まれぬよう離脱。タイミングを見てもう一度突撃を敢行する。
今度の攻撃部位は鰓だ。鱗のある部分の防御力がいかなるものか未知数であったし、第一身を攻撃すると食べられる部位が減ってしまう。
最小の攻撃で最大の結果を。これが戦闘の基本でありまた食料調達でも同じ事が言えよう。
同じ攻撃を左右の鰓に叩き込み、待つことしばし。
怪魚は白い腹を見せてぷかりと沼の水面へと浮かんだ。
いくら非常識なまでに巨大な魚であっても、鰓を破壊されてしまっては窒息するのが道理であったのだ。
さすがにこのサイズを生のまま収容できる冷凍倉庫となるとつらいが、缶詰にでもしてしまえば大量に生産できることだろう。
しかし秋春にはまだ一つ、懸念事項があった。
──この魚、見た目的にまずそうだなあ。
陸上から見ると、鱗は原色で奇怪な幾何学模様を描いており、醜悪な面構えはむしろ禍々しいとすら言えた。
見た目に問題がある魚が美味しいことは多々あるが、さすがに限度があるのではないだろうか。
──出来るだけ部下に食わせよう。
そう、思った。
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