「合言葉は イート オア イートゥンだよ!」
という、藩王さまのご指示のもとakiharu国は、各部署ごとに食料調達に乗り出すこととなる.
普段政庁で働く医務吏官たちも、必要最低限を残して食料調達部隊を編成し、狩りの準備を始めていた.
国民の総数が少ない藩国はまさに猫の手も借りたい状況である.
「さてさて、吏族のみんなには、3人一組でチームを組んで森へ狩りに出てもらおうか.集合時間まで、可能な限り食料を集めてきてください.以上解散!」
秋春藩王は簡潔な説明を残し、次の指示を出すため再び政庁へと戻っていった.
政庁の入り口前に整列していた吏族たちは、すぐに行動を開始した.
Akiharu国伝統儀式の一つである成人の儀を終え彼らは、森での狩りなんてものはたいした問題にはならない.
なにしろ、国から徒歩で3日かかる古代遺跡へ赴き、成人の証を取ってきたあの日のことを思えば・・・.
あのときの襲いかかる野猿の群れや吸血蝙蝠、どう考えてもミスったら生きてはいないだろうという数々の罠をくぐりぬけた彼らは、
もはや吏族といえども立派な戦士なのだから.
「1日もかからずに戻ってくることができるのですから大したことはありませんわね.天狐くん?」
「はい.僕は先日も遺跡へトレーニングしに行ってきたばかりですから、野生の勘は研ぎ澄まされています!」
「では、私たちも森へ向かいましょうか」
阪明日香と東西天狐、綸子はチームを組んで森へ向かった.
途中で出くわした危険な動物は全て天弧がなぎ倒し、倒したついでに食料として集められ、ようやく3人は狩場につくことができた.
そして、彼らはすばらしい連携を見せつけた.
阪は獲物を見つける係りだった.なぜってそれは「彼女がじっと遠くを観察している時、そこには必ず鳥がいるのだ.」(国民設定より)
綸子は獲物を仕留める係りだった.なぜってそれは「私、成人の儀でもそうやって生還したんですよ.」(本人談)
天狐は獲物を運ぶ係りだった.なぜってそれは「小柄であるが筋肉質な男性.」(国民設定より)
阪は、木の上でおいしそうに食事をしている隙だらけの怪鳥を見つける.
綸子は、鍛えた腹筋を利用し腹式呼吸で吹き矢を放ち麻酔針を打ち込む.
天狐は、落ちてきた怪鳥を次々と政庁へと運んでいった.
理想的なチームだった.
集合時間になるころには、狩られた鳥やらなにやらが山のように積みあがっていた.
収穫物:肉
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こうして、様々な鳥やら何やらを集めた吏族たちは、次の作業工程に入った.
調達した食料を保存食へと加工するのだ.
この工程には、一般の国民たちも参加し、政庁の中にある大きな厨房で行われた.
主に、akiharu国の野戦食の半分は戦地で調理して食べるタイプのものだ.
これは、兵士たちは運搬に便利だとか、長期間保存できることよりも、一番においしさを重視しているというのが理由である.
吏族と国民たちは「おいしい料理を兵士たちに」と、心を一つに力を合わせ、料理をはじめることにした.
「んー、それにしてもこの肉の山.僕たちは戦地で肉しか食べられないのかい?」
不安がる藩王に、天狐が元気よく答える.
「大丈夫ですよ、藩王さま.他の藩国の人たちと、お弁当の中身を交換し合えばいいじゃないですか.
僕、忌闇さんから聞いたんですけど、我藩国の肉は戦地でも1、2を争うほど美味いと人気だとお聞きしました」
「おおー.いいね.交換会楽しみだなあ.じゃあ、献立に関する不安も無くなったし、さっそく加工をはじめよう.
まずは、解体しなくちゃね.解体は天狐くんにお願いしようかな」
「はい.おまかせください.藩王さま」
天弧は言われた通り捕獲した獲物の解体をはじめる.
「でも、どうして天狐くんなんですか?彼は薬学が得意だと聞いていましたので、タレの調合をしてもらおうと思いましたのに.」
「彼は若いながらも、整体という医学を学んだ身だ.整体とは、骨格の歪みの矯正や骨格筋の調整を手足で行う医術だろう.
なら、体の構造は熟知しているから心配などいらない.」
人体と鳥やらワニやら動物の構造は違うのでは?といつもは、冷静なツッコミを担当している阪は考えたが、
彼女も他に仕事があるので深く追求しないことにした.
「それじゃあ、次いくよ.タレの調合は阪くんということでー」
「既に取り掛かっているようですね」
阪は自分の身長と同じくらいの大鍋を前に、不敵な笑みを浮かべている.
加工する肉ごとに、数種類用意された大鍋.
これは、兵士たちが味付けに飽きないようにという国民たちの思いやりであった.
「これだけの人々が、丹精こめて作った料理がおいしくないなんて話はないわ.いいえ、あってはいけないこと.
まして、味付け担当がこの私なんですから・・・.フフフ、おいしくなーれー」
脚立に乗って大鍋をかき混ぜる姿は、とても料理をしているとは思えない.
実際、言葉によるまじないもしているが、何かもっと怪しい雰囲気をかもしだしている.今でも国民が吏族を恐れる理由の一つは、これである.
そんな阪の姿を見て「阪くんが、いつもとちがうぅぅ」と、少し涙目になる藩王.
しかし、いつのまにか隣で自分を見上げている阪に気付き、驚いて軽く飛び上がった.
「藩王さま、そのようなお顔をなさらないで下さい.
確かに、見た目は良いとはいえませんが、この工程はとても大事なのです.
材料の中に残っている不要なものを抜き取って日持ちをさせるのです.
このひと手間が、美味しい調理のポイントなのですよ.」
「それに、藩王様にも次の仕事に取り掛かってもらわなければなりません.
流星号で沼の主と戦ってもらうそうです.
ああ、宰相の444様がお迎えにいらっしゃいましたよ」
「見つけましたよ、秋春藩王.さあ、出発です.
藩王が前に立って仕事すると国民の士気も上がりますからね.
働いてもらいますよ.国民のみなさんも、おまちかねです!」
「いやあー!もう親征しないって決めたのにー」
ぐずる藩王を引きずって、444は厨房を出て行った.
「さてさて、私も出来上がったお肉を箱詰めする手配をしなければなりませんね.
この量で、倉庫にある箱は足りるのかしら?足りないのなら増産しなくちゃいけないわね.
ああ、いけない!パイロットたちが獲ってきたワニも加工しなくては.
ピラニアもあったわね.食料の加工には、この分だとあと数日かかるから、生産ラインをフル稼働すれば箱も間に合うでしょう.
それに、藩王様の使うお薬や栄養剤も確保しなければなりません.急がなくては・・・.
それでは、阪さん、ここはお任せします.天狐くんがはりきり過ぎないように見てあげてくださいね」
ぐるぐるな状況になると、脳の中で開催される自分会議の状況を口に出してしまう というちょっとかわいそうな癖を持つ彼女も
(「失礼ですね!まだみなさん、お気付きになってはいないのですから、いいんです」本人談)、
残りの仕事を片付けるため厨房を後にした.
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数日後、吏族と国民たちが作った、いろいろな種類の動物の保存食は、様々な人々の汗と涙とその他の何かで出来上がったのである.
できた物:保存食
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