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借金返済SS

借金返済SS

田中申

「あ、セイハクさん。ちょっと聞いてもいいですか?」

 清白は苦笑いを浮かべ、田中のほうに近づいた。

「僕の名前はセイハクじゃなくてスズシロって読むんだ。それで質問って?」

「みんなにお祝いのお金を贈ろうと思ってるんですけど、どれくらいがいいですか?」

 ここでいうみんなとは、制服のデザイン案で決勝まで行った橘と、資格試験に合格した阪明日見、涼原秋春藩王である。 ちなみに、資格試験の合格通知がなぜか通信教育っぽい封筒に入っていたため、ほとんどの国民はそんなたいしたものとは思わず、「おめでとう」の言葉だけで済ませていた。

「祝儀とかそういう相場はあんまりよく分からないなー、僕、貧乏学者だから。今、いくらくらい持ってる?」

 田中はポッケから財布を取り出して中を開く。

「1、2、3……7000ヤバスあります」

「じゃあ、生活費を残して2000ヤバスずつでいいと思うよ」

「それはダメです」

 そう言ったのは忌闇装介である。 なにげに清白をフライングクロスチョップで吹っ飛ばしている。

「割り切れる数字は縁起が悪い。3000ヤバスにしましょう」

 ――それは結婚式じゃないかなー。

 清白は心の中で控えめにつっこんだ。 ちなみに頭はゴミ箱の中へ豪快につっこんでいる。

「足りない2000ヤバスはここで借りるといいですよ」

 田中はチラシを受け取った。 無担保無審査とか即日融資など、いかにも違法貸金業っぽいことが書かれているが、田中はその内容があまりよく理解できていなかった。 そして、「ありがとうございます!」と素直に礼を言うと、書かれた地図に従って歩いていった。

 「ここかな?」

 地図記号が分からず数時間ほど迷ったが、なんとかたどり着くことができた田中はさっそく中へ入ってみた。

「いらっしゃい」

 中にいたのは変装している忌闇だった(念のため言っておくが、女装ではない)。

「お金を借りたいんですけど」

 田中は忌闇と気づかず、普通に会話を進めた。 決して忌闇が泥棒猫だから変装がうまいというわけではなく、単に田中がバカなだけである。

「じゃあ、契約書にサインしてください」

 紙には小さな字で「一週間以内に返却できない場合、借りた額と同額の利息を払います」などといったトイチ(十日で一割)よりも凶悪な条文がいっぱい書いてあった。 忌闇だけに闇金融である。 しかも、タチの悪いことに彼はakiharu国の経済産業大臣でもあった。

 が、田中はまったく内容を見ず、大人とは思えない下手な字でサインすると、肉球を朱肉の上でぽんぽんして、契約書に押し付けた。

  田中の借金に気づいたのは、鈴木であった。

「これ、早く返さないとまずいですよ」

 契約書を読みながら、鈴木は言った。 頭はアフロになっていたが、表情は真剣だった。 借金した当の本人はわりと現状を把握しておらず、のんびりしていた。

「とりあえず、働きましょう」

 それが鈴木の提案だった(泥棒はやろうとして失敗した)。 しかし、限られた時間内に即決で2000ヤバス手に入れるのは難しかった。 田中のマスコット人形を作り、その印税でなんとかするという案は、量産ラインを整えるのに時間がかかるので無理。 音楽CDやプロモーションDVDなどといった歌手活動は、楽器を演奏できる者がおらず、歌詞も覚えられないので無謀。 暗算が苦手なので、金勘定する売り子はほとんどダメ。 客寄せなども給料の支払日の関係でアウト。

 仕方がないので、友人からお金を借りることにした。 友達をなくす恐れのある、最後の手段である。 が、田中は運が悪かった。 444は、アメショーで戦った謎の生物を使ってパイロット体験ツアーを設立しようとしており、会うことができなった(なお、アフロになった件が原因か泥棒猫に戻っていた)。 藩王様はその案に乗っかって、ついでに整備体験コースも作ろうとがんばっていた。 444の服にもぐりこんでアフロをまぬがれたゴダイゴとふじこは、ジャングル食べ歩きツアーの天空コースでガイドをして、軽く行方不明になっていた。 綸子は大吏族チェックを前に過労で寝込み、残った阪明日見は忙しさのあまり、シャレにならないほど怖い雰囲気で働いていた。 とても、近づける感じではなかった。 藩王以外のドラッカーは新薬やドラッグカクテルの自己実験でぐるぐるしていた。 他の猫士や泥棒猫も居留守を使ったり、ニンジャテーベーショッピングとかナニワテレフォンショッピングとかでお金を使い込んだりと、借りれそうもないという点でだいたい同じであった。

 「で、僕のところにきたわけですね」

 東西天狐は田中の視線までしゃがみこんでいった。

「お借りできます?」

 天狐は断る理由を考えながら、下を見た。

「その靴下……!」

 それはあきらかに三日ははいたものだった。 田中は金策でいろいろ回っていたためか、服を着替えるのを忘れていたのだ。

「是非ともゆずってください。いえ、売ってください」

 こうして田中は無事2000ヤバスを手にすることができた。 のちにそれがコピー機で複写した偽札だったことを知るのだが、それはまた別の話である。