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食料獲得したぜ!

食料獲得したぜ!

作:444

 会議における涼原秋春藩王のお言葉
 
 「おなかがすいたので、ご飯作ろう。
  遠征するならお弁当もいるし」
 
 いつになくローテンションの藩王の言葉に、
 国民、猫の反応は鈍かった。
 
 「大丈夫ですか?」
 
 ローテンションの藩王に、吏族・綸子が心配そうに声をかけた。
 
 「あー、うん、最近戦争準備で寝不足で……。ちょっと待って」
 
 そう言うと藩王はふところをゴソゴソとまさぐると、
 色鮮やかなキノコを取り出し、口に放り込んだ。
 しばらく藩王の動きが停止していたが、体がガクガクと震えながら、目が大回転を始めた。
 藩王の手が音を立てて演説台に打ち下ろされる。
 
 「同胞を助けるために、食料を手に入れよう!
  河を遡ってワニを狩り、天空を翔けて怪鳥を打ち落とすのだ!
  ワニや怪鳥に食べられるような情けない国民はうちにいないと、藩王は信じています!
  よって救助隊なんかありません! 食うか食われるか!
  イート オア イートゥン!」
 
 国民、猫、スタンディングオーベーション。
 
 「いやー、うちの藩王様はこうじゃないとなー」
 「これが我が国の藩王か。実物でみるとやっぱり違うな」
 「というか、何気に指示が戦争よりつらくありません?」
 
 文族・清白と、藩王の人柄に惹かれて新規国民となった東西天狐、
 執政・鴨瀬高次が笑い声を上げた。
 
 その一方で、藩王の演説はエキサイトしながら続いていた。
 
 「見えるだろう、僕たちの前にツナ缶の家が!
  夏は涼しく、冬も冷たい。いや、日なただと缶が熱くなって危険なのかな?
  綸子君、阪明日見君、どう思う?」
 「はいはい、藩王様、帰りますわよ」
 「鎮静剤、用意してありますから」
 
 綸子と、吏族・阪明日見が慣れた様子で藩王を引きずっていった。
 余談だが、この国の吏族の職務には、医者としての藩王への
 対処が多分に含まれていたりする。
 
 藩王に代わって、執政444が壇上に立ち、締めの演説をした。
 
 「それじゃあみなさん、張り切って食料調達しましょう」
 
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 そして、国民が国の各地に散らばって、食料調達が始まった。
 広大な密林と河を前に、技族忌闇装介は叫んだ。
 
 「よーし、それじゃあ張り切って仕事するぞー!
  ……飽きた」
 
 忌闇装介は飽きっぽかった。
 大の字になって転がった忌闇装介に、通りかかった吏族二人が声をかけた。
 
 「いや、仕事しなさいよ」
 「お、吏族の二人もここの担当だっけ? 覚えてないけど」
 「私たちは、空の担当ですわ」
 「怪鳥を倒しに行きます。その前の見回りですね
  お仕事してください」
 
 
 「うーん、そう言っても、イマイチテンションが上がらないんだよなあ。
  何かテンションが上がるものが欲しい。ツナ缶とか」
 「ありませんわ」
 「は?」
 
 忌闇装介の目が点になった。
 
 「うちの国は海がないから、ツナ缶はみんな他国からの輸入品。
  戦争前の輸出規制で、うちに入ってこなくなりましたの。
  この前の暴動鎮圧にばらまいたので最後ですわ」
 
 呆然としていた忌闇装介の目に理解の色が浮かぶと同時に、怒りの炎が燃え上がった。
 
 「おのれ……おのれ、謎の敵め! よくもツナ缶を、犬どもよりも憎いやつ! この俺が成敗してやる!
  それじゃ、今からフィーブル藩国に突っ込んでくるから」
 
 じゃ、と手を上げて特攻を宣言した忌闇装介が暴走する前に、素早く阪明日見が言った。
 
 「大丈夫」
 「なんだよ!」
 「ここに、ツナ缶の木の種が」
 
 
  忌闇装介の顔が、パッと輝く。
 
 「そうか! ツナ缶がないなら、ツナ缶を作ればいいんだよな!
  それじゃあ、俺は今から、ツナ缶の木の栽培に精を出すよ!」
 
 満面の笑みで、地面に埋めた種にじょうろで水を撒く忌闇装介を見て、
 阪明日見は聞こえないようにボソリと呟いた。
 
 「……単純」
 「……ところであれ、何の種なんですの?」
 「スイカ」
 「……いきましょう。私たちもお仕事しないと」
 「ああ、ちょっと待ってください」
 
 立ち去ろうとした二人を引き止めたのは、技族・橘であった。
 
 「いやまあ、忌闇装介君をひきつけるための嘘とはいえ、
  ツナ缶を作るというのは、そうまずくない案だと思うんですわ」
 
 橘が、手元のスケッチブックに目にも留まらぬ速さで何か
 得たいの知れないものを描き込みながら言った。
 それにしても、みんなツナ缶大好きだな。
 
 「と、言うと?」
 「ツナ缶のツナとはマグロの英名です。
  ツナ缶とは、マグロの油漬けの缶詰なわけですな」
  「ふんふん」
 
 橘の豆知識に聞き入る吏族二人。
 
 「つまり、マグロ以外のうちの国で手に入る魚で代用すればいいわけですよ。
  実際、マグロだけじゃなくて、カツオを使ったりもしてますし」
 「ふーん。……でも、うちの国に使えるような魚ってあるんですの?」
 「ありますともさ」
 
 そういうと、橘は忌闇装介が水を汲みに入った河を指差して言った。
 
 「ピラニア」
 「あーーーーッ」
 
 惨劇。
 
 「ピラニアに食われる忌闇装介君の図、と。退廃の美があるなあ」
 「描いてないで止めなさいよ!」
 「大丈夫でしょ。彼もうちの国民ですし。あ、東西天狐君が助けに入った。
  熱い友情の血潮の図、と」
 「……流血してるから血潮?」
 「いやまあ、それは割とどうでもいいんですけど」
 
 スケッチブックをたたむと、橘は二人に向き直った。
 
 「吏族のお二方に、このツナ缶計画の予算を立ててもらいたいな、と。
  うちの国民はみんなツナ缶大好き。
   それに、缶詰は保存食として適しています。
  食料の備蓄は大切ですよ、レムーリアで、アーミ様は空腹で大変だったんですから!」
 「いや、そう力説されても……」
 「フフフ、それに、これは最初の一歩に過ぎません。
  いずれは、ツナ缶を全て国内でまかなえるようになり、
  国民はピラニアのツナ缶を本当のツナ缶だと信じて生きていくのですよ!」
 「却下ーーーー!」
 「というか、工場作る余裕なんか、うちにはないです」
 
 エキサイティングする二人と、冷静に突っ込みを入れる阪明日見。
 
 そんな3人を、やれやれとばかりに見つめる王猫、ふしゃ・ふしゃーるの姿があった。
 ふしゃ・ふしゃーるの足元には、国民たちが遊んでいる間に狩ったピラニアが山と積み上げられていた。
 この猫に立ち向かったピラニアは全て狩られた。
 ツナ缶を失った猫は、行き場のない怒りに燃えていたのだ。
 そして怒りは全てピラニアで発散。気分爽快。
 
 こうして、この地区での食料調達は、王猫の活躍で成功に終わった。
 
 収穫物:ピラニア。
 

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