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戦争準備状況その1

akiharu国の戦争準備状況 その1

作:444&阪明日見 挿絵:橘

 同盟国、フィーブル藩国への敵侵攻が知らされたとき、
 akiharu国では、失われた恋人探しで燃料14万トンゲットして大喜び。大宴会の真っ最中であった。
 
 「敵侵攻だって、どうしよう?」
 「とりあえず、宴会の料理片付けてから考えよう」
 「そのあとは昼寝」
 「毛づくろい」
 「えーと、それで何するんだっけ?」
 
 「いや、お前たち、働けよ!」
 お気楽な猫と国民たちに、 藩王様逆上。
 
 「いやー、ほんと、戦争起こってるの隣国だからやばいんだよ。
  フィーブルがやられたら、うちに来てもおかしくない。ははは」
 「明日のことは明日考えるにゃ」
 そう言って、王猫様ふしゃ・ふしゃーる爆睡。
 藩王様号泣。
 
 「ええい、こんな馬鹿会話してる場合じゃない! みんな、戦争準備だ!
  機関銃を磨いたりドラック用にキノコを溶液にでもつけるといいよ!」
 
 その藩王の言葉に、勢いよく手を上げるソックスアイロンこと執政・鴨瀬高次。
 「はいせんせー質問です、敵は靴下をはいてますか?」
 「はい鴨瀬君良い返事ですね。敵は戦艦です。どこが足なんだろう?」
 「戦艦だって靴下を履いてていいじゃないか!差別だ!」
 
 逆上するソックスアイロン。その横で、脳が煮えた444が叫んだ。
 
 「わかった、つまり戦艦に足が生えてるんだ!」
 「足で泳ぐ戦艦……! 」
 「地上でも移動できるのか……」
 
 戦慄する清白と鴨瀬高次。
 
 「ええい、靴下禁止! 仕事仕事!
  おやつは300にゃんにゃんまで、バナナは今回装備に含まないぞ!
  含むと近接戦闘時に使っちゃうだろうから!」
 「えー、バナナ使いましょうよー」
 
 そう言ったのは、お菓子をむしゃむしゃと食べながら戦争準備を
 素早い手際で進める吏族・綸子。
 その小さな体のどこにそれだけのお菓子が入るのだ。
 
 「バナナは遠距離射撃にも使えますよ?」
 「トラップにも最適ですわよ」
 
 床に転がった宴会のゴミであるバナナの皮を避けながら、駆け回って
 戦争準備を進める吏族・阪明日見が声を綸子と声を合わせて言った。
 「うん、でも、問題はうちの国に忍者がいないことなんだ……」
 
 藩王が二人に答えていると、そこに猫歩兵忌闇装介が駆け込んできた。
 
 「藩王様、戦時体制で食料を規制したところ、猫が反乱を起こしました!
  というか、俺も反乱するぜ! 飯をよこすのだ! プリーズフード!
  猫に飯と昼寝とひなたぼっこを!」
 「ツナ缶を与えてあげなさい」
 「猫たちが喜んでおります! 俺も喜んでおります!」
 「よきかなよきかな」
 
 忌闇装介が尻尾を立てて藩王への忠誠を示していると、
 橘が忌闇装介の後を追って駆け込んできた。
 
 「一部の猫たちが、食料をもとめて森の中に進入し、ワニと猿から被害状が。『餓えた猫強いよ。噛まれると痛いし』」
 「ライオンとかに進化する前に回収してきて下さい」
 「鳥からも被害状が出てます『ウチの息子の餌をとらないでください』と
  で、ちょっと事情を聞いてるときに気づいて言ってみたんですよ。
  『奥さん、息子さんも食べられそうですよ』『あら、これは気づきませんで。……息子ーーー!』」
 「いや、止めようよ! というか、ワニとか猿とか鳥って喋ったっけ?」
 「そこは私の創作です」
 「捏造かーーー!」
 
 
 大騒動を見ながら、鴨瀬高次が誰にともなく言った。
 
 「なんかウチの国、戦争始まりそうなのにシリアスにならないな
  ならないのか、なれないのか?」
 「まあ、猫だから」
 
 444が答えると、二人は戦争準備へと戻った。
 
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 それからしばらく後。
 お気楽な猫歩兵たちと違って、医師でもある吏族たちはまだ現実への対応が早かった。
 膨大な数の事務をこなしながら、秋春藩王の「ドラック用にキノコを溶液にでもつけるといいよ!」発言の通り、せっせと軍事用ドラックの生産に励んでいた。
 
 「ああ、今日中にすべてキノコの成分抽出を終えないと」
 「軍の医薬品の在庫は足りているのかしら?すぐに確認しなくてはね」
 隣同士にある政庁と病院の地下通路を吏族の阪明日見と綸子が急いだ様子で歩いている。
 向かう先は重そうな鉄の扉。二人はその扉の前で、ベルトのバックルを大鷲から尾をくわえた蛇に付け換えた。
 ここからは病院の領域。akiharu国医務吏官は昔からのしきたりとその意地を通して、かならず両者を隔てる扉の前でバックルを換えるのだ。
 
 二人は一刻の時間の猶予も無いとばかりに、急いで地下の開発部へ入っていった。
 ここでは主に軍用医薬品の開発が行なわれている。akiharu国はその豊かな動植物から古来より続く生薬の知識がある。そのため医師たちは、他国に比べ珍しくも薬学をも修め、より効果の高い新薬の開発で医療の発展に貢献していた。
 
 「さてと、これで準備はOK」
 綸子は薬用キノコの入ったダンボールを堆く机の前に積みあげた。
 「もう、見ているだけでもウンザリだわ。さっさと始めましょう。」
 これから始まるのは薬用キノコを細かく刻む作業だ。とにかく刻む。刻みまくる。その後溶液につけて成分を抽出、有効成分を取り出す、のだが。もう、純粋な成分などといったら、天井まで届くダンボールすべて使っても小瓶一本採れるか採れないか。実際のはもっともっと薄めて使うのだが、需要が多い戦争時などは大量生産がまったく追いつかないのだった。
 
 「なんで入れても入れても、山がちっとも減らないのよ。」
 阪が呪いの言葉を呟きながらも、キノコの供給という地味な作業を続ける。
 今では刻む作業は機械化されて安定生産できるようになっている。当時は医師たちも泣いて喜んだものだったが、効率化により生産量が増えたため、どちらにせよウンザリする作業には変わりないのである。
 
 ガー、ガーとうるさい音を立てながら、機械の中の薬用キノコがどんどん細かくなっていく。その様子を見つめながら阪が大きなため息をついた。
 「はぁ、なんでこんな雑務を私たちがしなければならないの?こんな作業、医師免許がなくてもできるわ」
 綸子が大きく頷く。
 「そうよね、私たちにはもっとやらなければならない大切な仕事が山ほどあるのに」
 「そもそも国民が少ないのよね。今頃他の皆は何をしているんだろ…」
 「資金調達に行ってもらっているよ」
 
 一瞬、時が止まる。
 「藩王様!!」
 二人は声を合わせて叫びながら後ろを振り向くと、そこには秋春藩王その人が。
 「何の御用でしょうか?」
 頭が混乱しながらも綸子がなんとか言葉を発する。愚痴を聞かれたと思い赤面。
 「いや、いつもの胃薬をもらおうと思ってね。作業は進んでいますか?」
 「はい、今日中に軍用ドラックの生産は間に合いそうです。」
 と阪は答えつつも、背後にまったく気配がなかったわ、と驚きを隠す。
 「藩王様、胃薬です。いつもより多めに入れておきました。」
 「ありがとう。少々疲れていてね、これを使う機会も増えるだろう。」
 そう言って秋春藩王は部屋を出て行った。
 
 二人はあっけにとられてその場に暫く立っていた。ピー、ピーという機械の音で慌てて動き出す。次のキノコを入れなければいけない。
 阪が呟く。
 「藩王様も頑張っていらっしゃるのに、ぼやいていてはいけないわね。」
 「そうね、私たちもこの国のために頑張ってお仕事しましょう!」
 
 こうしてakiharu国医務吏官の職務は円滑に達成され、無事に戦争準備を行なうことができたのだった。
 
 そして藩王の去った後、薬用キノコが一つ消えていることは誰も(しばらくの間だけ)気付かなかったのでした。