戦争動員前日、他のにゃんにゃん共和国の藩国と同じく、
akiharu国でも、戦争動員の影響は大きかった。
燃料と電力、食料は戦争用に回され、一般国民もそうでないものたちも苦しんでいた。
akiharu国の病院。発達した医療技術で有名だが、この施設こそ最も電力の不足の影響を受けていた。
「電力が足りません。燃料がないんですよ!」
「手術室で患者さん待ってるのよ! となりの政庁から電気持ってきちゃって!」
「向こうもとっくに電気止まってますよ! とりあえず天狐さん、自転車こいで発電してください!」
「よしきた!」
病院の医師たちが緊急事態に叫び声を上げる。
連絡事項を持ってきた天狐は、顔見知りの医師に声をかけられ、
鍛えられた肉体で自転車型の自家発電機を藩王の目のようにぐるぐるとこぎ始めた。
本当は連絡事項を持っていくのは田中申のはずだったのだが、病院は嫌いだと田中申が逃げたばかりに
とんだ災難である。
「電力きました!」
「オッケー。手術始めちゃって。暖房は、そこらへんから薪取ってきて、ジャンジャン燃やしちゃって!」
「電気ですけど、電気ウナギを取ってきてはどうでしょう!?」
「それでもいいわね。三班は川行ってきて!」
「あのー……僕はいまで自転車こぐの止めたらいいのかな」
「電気が安定供給されるまでよ! まったく、戦争なんてろくなもんじゃないわね」
一方、政庁。藩王や吏族たちは戦争に向けて忙しく働いていた。
「……ねえ」
「なんですか? あ、これハンコお願いします」
「こことここね。……壁、修理しようよ」
「資源も資金もないですから。先立つものがないとどうしようもないです。……天狐さん遅いなあ」
戦勝祝勝会で国民たちが靴下やワニやアメショーで壊した結果、政庁はぼろぼろになっていた。
「……僕、ポケットマネーで修理費出したけどなあ」
「あれじゃ全然足りませんよ! あ、今日のご飯はかつおぶしご飯ですので」
「……ツナ缶は?」
「戦時食料に回してあります」
藩王がぐったりしていると、どこからか沸いてきた泥棒猫と猫士たちが、声をそろえて
早く戦争になれー、と大合唱をはじめた。
「こらこら、そんなにツナ缶が食べたいのか。
……それにしても、うちで余ってるのと言ったら、娯楽くらいか。
観光に来てくれる人がお金落としていってくれるのはありがたいね」
「……あのー、ところで藩王様」
「ん、何?」
泥棒猫の一人がおずおずと遠慮がちに声をかけてきた。
新入りの田中申である。
「いまさらこんなこと聞くのも恥ずかしいんですけど」
「何? どんどん聞いちゃってよ。うちの国はわかば歓迎だから」
事務仕事の手を休めた藩王にそう言われると、
田中申は頭をかきながら口を開いた。
「僕新入りなのでよくわからないんですけど、今度の戦争って、どこと戦うんですか?」
田中申の言葉に、その場にいた全員が沈黙した。
「……そういえばどこだっけ? 根源種族?」
「あれ、わんわんじゃありませんでしたっけ?」
「私は、内通者の粛清だって聞きました」
あれー、と場の全員が顔を見合わせる。
「タマ大統領も適当だなー。たまったもんじゃないや」
「藩王様たちも適当だと思いますよ」
大丈夫かなー、この国。にゃんにゃんも、akiharu国も。
そう思いながら、みんなは仕事を再開した。
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