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祝勝会レポート(作:鴨瀬高次・清白)

  先のアウドムラ迎撃戦にて、akiharu国は要求された兵力を出撃させることが出来なかった。
  だが、にゃんにゃん共和国はアウドムラ迎撃戦にて大勝を収め、本来ペナルティを課されるはずだった動員数30人未満の国への恩赦と、次のアイドレス3つ取得という恩恵を受け、国民のテンションは上がりに上がっていた。
  そして、そのノリのまま宴会が始まった。
 「アハハハハハ、宴会だ宴会だっ!!」
  体育会系のノリで東西天狐は酒を飲む。ジョッキ一杯一気飲みなぞ、序の口。樽ごとよこせーと息巻いている。
 「ははは、いやー最高の気分だねぇ。鈴木さん」
 「いやはや、これもにゃんにゃん共和国大勝のお陰ですね」
 「あはは、本当ですよ。海法さんありがとーです」
  清白、鈴木、綸子もお酒を手に、わいわいとお喋りを楽しんでいた。
 国民全員が一同に会しての宴だ。王猫のふしゃ・ふしゃーる初め、猫士たちも続々と集まってきている。
 倉庫から次々と運ばれる酒が入ったドラム缶。今夜だけで倉庫がからになりそうな勢いだが、制止するものはいない。
 ねこはねこらしく、明日のことは明日考えるにゃー、の精神である。
  宴会の盛り上がりは最高潮に達している。
 だが、そんな中で1人だけ鋭い視線で辺りの様子を窺っている男がいた。
 「フフフ、みんなが酔いつぶれたときこそ、まさに千載一遇の好機ですね」
  鴨瀬高次は舐めるような視線を足首へと向けている。イイ、スゴクイイ!!
 ああ、はやくみんなのソックスをこの手に……!!
 「よーし、いいぞー飲め飲めーっ」
  東西天狐に囃し立てられて、鈴木はドラム缶を両手で掴み一気に飲み干す。顔は紅潮し、既に藩王ばりに目はぐるぐるだった。
 やがて、天狐も酔いつぶれて床に倒れこんでしまう。
 「……やれやれ、ソックスマッスルよ。こんな体たらくではソックスハンターの名が泣くぞ」
  そんな東西天狐の耳元で、男は囁く。
 「あ、鴨瀬さ……いや、ソックスアイロンよ。まさか、このめでたい席でハントを?」
 「フフフ、当然です! 真のソックスハンターは手段を選ばない。チャンスがあれば全力で狙え……とね。そう、ソックスが私を呼んでいるのですよ! 
 見ているのだ、マッスルよ。私は行く」
  眼鏡をきらりと光らせながら、鴨瀬はそろりそろりと近づく。最初のターゲットは、鈴木……フフフ、良い様に酔いつぶれてますね。これなら、楽勝……!!
 「さぁ、ソックス狩りを始めましょうかっ!!」
  宴会場に、黒いアクマが暗躍する。
 
 「……風紀委員会より緊急連絡です。ただいまソックスハンターが出没した模様。
 被害は甚大、既に多数のソックスがハンターの魔の手に掛かっているようです。
 繰り返します、ただいまソックスハンターが出没した模様――」
 
 ソックスアイロンが酔いつぶれた鈴木の靴下をするすると脱がす。
 ふと、鈴木と目が合う。
 「……何やってるんですか?」
 「靴下脱がしてます」
 「面白いですか?」
 「個人的主観に基づけば、かなり」
 「そうですか」
 そういって再びこてっと寝る鈴木。
  脱がしたての靴下の臭いをかぐソックスアイロン。
 「何の変哲もないただの善良な一般市民の臭いですねぇ、個性もなにも感じられない」
 そう言ってぽいっと使用済み鈴木の靴下を投げ捨てる。
 「さて、次の獲物は……」
 「そこまでよ!ソックスハンター!
 天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪を倒せと私を呼ぶ!
 聞け、ソックスハンター共、私は風紀の戦士綸子!」
 酒に酔って目がぐるぐるになった綸子がソックスアイロンの前に立ちはだかった。
 
 「あれ、止めなくていいんですか?同じソックスハンターでしょ?」
 清白が天狐に囁く。
 「とばっちり食うから嫌です。それよりも今はただ酒を愉しみましょう。ささ、清白さんも飲んで飲んで」
 酒を樽ごと渡す天狐。
 「それごとはちょっと……」
 「何ーッ俺の酒が飲めないってかっ!」
 「そうではなくて、量的な問題というか……それと会話をはさんで人格変わってません?」
 「キャラ設定的に岩田+若宮なのでテンション一瞬にして変えないと。さあ、このゲームのラスボスは私です!カモンカモン」
 「つきあいきれません……」
 
 眼鏡をつっと上げるソックスアイロン。
 「またあなたですか」
 「この間はまんまと逃げられたけど、今回はそうは行かないわ!」
 「吏族は素足サンダルなので眼中にないのですよ」
 「あろうが無かろうがこれ以上靴下の発注を増やしたくないのよっ」
 言い切ると同時にコートの内に仕込んでいたメスを数本取り出し、ソックスアイロンに向かって投擲。
 上半身と下半身が別々に動いているかのようにSの字体勢になり、メスを避けるソックスアイロン。
 「他愛もない。この程度では本気など到底出せませんね」
 「きーっ!ならば出させてあげようじゃ有りませんか!本気を!」
 
 一方その頃、清白は天狐の勧める酒を必死に避けようとしていた。
 「天狐さん、このお酒、何か変な臭いがしませんか?」
 「気のせいですよ、気のせい。ささ、ぐぐっと」
 「いや、この臭いは絶対普通の酒じゃない、バナナ酒とか馬乳酒以上の臭いが……
 しかもこの臭い、どこかで嗅いだ事の有る。
 そう、夜勤続きで替えがなくて、じゃあ、裏返しにして履けば、後三日は持つんじゃないかなって悩んだときの……靴下の臭い?」
 それを聞いたソックスアイロンの眼鏡が怪しく光った。
 「マッスル!貴様まさか!」
 「くくくっ……一口飲めばめくるめく饗宴の世界に一直線だったのになっ!そうだ。
 この間、鍋の国からインタビュアーが来ただろう。その時だっ!」
 「やはり……よく磨いだ食用靴下を少量袋に入れ、一日一回揉みつつ3日ほど放置し、初恋のような甘酸っぱい香りがしてきたら水と食料靴下を分離し、食用靴下を蒸らす。
 その後蒸らした食用靴下に麹菌を加え、先程分離した水を加え、1日1回かき混ぜてから2日ほど放置する。(初添え)
 その後白い靴下を同様に蒸らし麹菌を加えさらにこれに加える(中添え)やはり同じく1日1回かき混ぜて二週間程醗酵させると出来るという……」
 「長いわボケッ!」
 長台詞に飽きた綸子がソックスアイロンの頭めがけてメスを投げる。
 ソックスアイロン、頭からどぴゅーっと血を流しながら倒れる。
 「あっ、死んだ」
 
 気づくと鴨瀬はメスで壁に貼り付けられていた。
 なぜか自分の首元左5mm程の所にメスが刺さっている。
 「第二刀!いっきまーす!」
 にこやかにメスを投げる綸子。頸もと右5mm程の所にささる。
 「あれ?おかしいですわ?心臓めがけて投げたつもりでしたのに」
 「いや、死んじゃうから死んじゃうから」
 あわあわしながら突っ込む清白
 「わははは!いいぞーもっとやれー!」
 ドラム缶から濁白靴下酒を飲む天狐。あまりの臭いに誰も近づけず、もはや手に負えない。
 「ではお言葉に甘えまして!第三刀!とうりゃあああああ!」
 綸子の右手が音もなく振られる。否、その直後すざまじい音と共に綸子の後ろにいた天狐がドラム缶ごとふっとぶ。
 音速を超えて衝撃波が発生したのだ。鴨瀬の元に刺さる前に粉々になるメス。
 「最近のメスは根性が足りませんわね」
 虫を見るような目で粉々になったメスを見る綸子
 「無機質に根性を唱えるのはいかがなものかと」
 冷静に突っ込む鴨瀬。
 「鈴木さん、こうなったらあなただけが頼りです!この状況を何とかしましょう!」
 隅っこの方で横になりながらのの字を書いていじける鈴木をがくがくと振る清白。
 「いえ、僕はどこにでもいるごく普通の善良な一般市民ですから。こういう荒事は僕なんかじゃ…」
 どうやら先程のソックスアイロンの捨て台詞が聞こえていたらしい。
 「そういう問題じゃ!」
 「第四刀!」
 あわてて食べ物や飲み物を抱えて綸子の真後ろに逃げ込む面々。
 首をありえない角度に捻じ曲げてメスを回避する鴨瀬。
 「これだけやってもまだ本気を出さないというのっ!」
 「私の本気は愛するモノの為に使われるのです。このような見世物などに…」
 「シャーラップ!」
 秒間120本の勢いで投げれられていくメス。
 それを全て避ける鴨瀬。もはや人間としてありえない関節の曲げ方である。というか関節以外も曲がっている。ただの変態である。
 「なあ、思ったんだけどさ、綸子さんは鴨瀬さんの本気を見たいわけだろ?」
 ふと気づいたように言う清白。
 「そうですねぇ」
 やはりいじけてのの字を書く鈴木。
 「じゃあさ、鴨瀬さんの愛するアレを出せば事態は解決するんじゃないかな?」
 「ああ…今更無理じゃないですか?」
 
 こうして祝賀会の夜はもりあがっていったのだった。