――この国は大丈夫なのか……?
ある日、akiharu国を訪れた観光客は思わずこう呟いたと言う。
なにせ、ドラッガーが多い。それも余り副作用がないことを強みに、事ある毎に薬をきめる。
さあ出仕だ、といいつつアンプルを首にさし、肩が凝ったとぐるぐる腕を回しながら、キノコを食べる。
さらに、国を挙げてのドラッグの製造、そこら中で怪しいキノコの栽培など、
まさにドラッガーにとっての天国のようなものである。
だがそのakiharu国のなかでも最もヤバイ……
もとい、優秀なドラッガーは藩王自身であるというのは周知の事実である。
息をするように、キノコを食べ、薬を打つ。常に目はぐるぐる。
国民の間からは、栄養の大半を薬から取っているのでは、と囁かれる始末であった。
伝統的に鍛えられてきた肉体的な強健さと、医師団による研究成果によって、ある程度は副作用は抑えられてきたが、
それもいつまで続くかとハラハラする吏族たち。
そして、心あるものならば誰もが心配していたことが現実になってしまったのである。
「みんなもキノコを食べればもっと強くなれるよ!」
いつものように愛用のキノコを頬張りながら、藩王はI=Dから降り立った。
その目を見たとき、出迎えの者は青ざめたという。
見慣れたぐるぐるした瞳よりもさらに酷い、ある意味いっちゃっている両眼と、
何故か肩に彫られている薔薇の刺青。
そして、心が凍るような笑顔。
その日から、藩王の行動は過去とは一線を画したものになる。
どんな困難が訪れようとも、この世のドラッグについては全てを知り尽くしているような顔で、
数多の薬の中から最適なものを選択、注入。次々と障害を乗り越えていった。
その神がかったクスリ捌きを見たドラッガーたちは、尊敬の意を込めて藩王をこう呼んだ。
「貴方は、まさにドラッガーの魔法使い。そう……ドラッグマジシャンだ」
これに気分を良くした藩王は、自らの同士であるドラッガーたちに、薬の扱い方の手ほどきをするようになった。
それは居住区とは遠く離れた、今では廃墟となっている飛行場で行われていたため、
住民にはその会合を目撃した者はいなかったのが幸いといえる。
不幸にもその近くを通り過ぎた者がいたならば、深夜に響く狂ったような笑い声と、
狂乱して踊るパイロットたちの姿という地獄絵図のような世界を垣間見ることになっただろう。
そして晴れて藩王から認められた者には「ドラッグマジシャン」の称号が与えられ、
その印として薔薇の刺青を彫ることになるのだ。
軍の主力とも言っていいI=Dに、このような人々が乗るというのはかなり恐ろしい事態ではあるが、
実際パイロットはドラッガーしかいないので、仕方がないのである。
時折暴走する彼らによって、地上の飛行場の一部は見るも無残な瓦礫の山と化してしまった。
最も、その地下にはI=Dの出撃拠点としての設備が整えられている第2飛行場があるから問題はないのだが。
こうして敵にとっても恐怖、住民にとっても恐怖というパイロット集団が誕生したのだ。