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vd-3

物語で読む 迫り来るプレゼントからの脱出

 最近、観光地では奇怪な叫び声が聞こえると言う噂であった。
 またワニ皮やバナナの皮が大量に積まれ、誰がこれほどの狩りを成し遂げたのか人々は噂をしていた。
 そんなある日の事である。
 「こんにちは、シロネコやまとですが、判子お願いしますー」
 「ご苦労様です」
 444が荷物を受け取る。
 「あざーしたー」
 忌闇が寄ってくる。
 「メッセージカードが付いてますね」
 「バレンタインデーレインボーセット
 いつもとは違う趣向を凝らしてみました。
 我が国の誇るべきカツラの技術を応用して生み出された無駄毛の装着によるもっさり感はいかがでしょう。」
 「ゴロネコ王国のバレンタインデーって言うのはかつらとか使うんですかね?」
 「それよりなんで忌闇さんは女装してるんですか?」
 「ソレハイワナイヤクソクダヨ、オトッツアン」
 「まあ、とりあえず開けて」
 蓋を手にとった444が飛びずさる。
 「これっ、これっ、これは…」
 「どうしたんですか?天狐さんがこの間開発した鎮静剤を…」
 「それもごめんだっ、とにかく箱から離れて!」
 突如として爆発する段ボール箱。辺りは白煙に包まれる。
 爆煙の間からもっさりとしたギャランドゥが垣間見える。
 「かっ鴨瀬さん!その姿はどうしたんですか!」
 そこにはレインボーのリボンをへそ出しレオタードのように巻きつけてラッピングされた鴨瀬が居た。
 大人の事情により顔から上しか表現できないのが幸いである。
 「私は鴨瀬などではありませんよ」
 「ま、まさかソックスアイロンが暴走を?!」
 「ソックスアイロンとは何の事ですか?
 私はゴロネコ王国でとある老人にあった。老人はメッセージを託された。
 そう、楡の木の影から立ち上がり、己のなすべき事を成せと。
 その為にゴロネコ藩王様はリボンとカツラと成すべき事を下さった。
 私は目覚めた!わが名は紫にして純愛!アイドレスに愛と平和を!
 その為の足がかりとしてこの記念すべきバレンタインの日にakiharu国を楽園にするのです!」
 「目覚めすぎだからっ!」
 「なんだよ、あの変態は! ゴダイゴ、逃げるよ」
 「ニャー(いざとなったらこいつをオトリにして……」
 蜘蛛の子を散らすように鴨瀬から逃げ行く444と忌闇。
 「皆さんには分っていただけないようですね……
 よろしい、過激派博愛原理主義が愛の教育を施して差し上げましょう!」
 一人残された鴨瀬は大広間で悪魔笑いをした。
 「くしゅん……しかし真冬にこの格好は寒いですね」
 いま、愛の惨劇が始まった……
 
 444と女装した忌闇そしてゴダイゴが王宮の廊下を駆け巡る。
 「皆!逃げて、逃げて!」
 「悪魔がっ!虹色の悪魔がっ!」
 「虹色の悪魔?」
 騒ぎを聞きつけて衣装室から出てきた人影。綸子と抱っこされた阪である。
 直後ラメの入った虹色のリボンが近づいてくる。
 5mくらい近くにきてやっと怪しい様子に気付く綸子。
 クイックターンしてものすごい速さで歩いて逃げました。
 「なんか、毛がいっぱい!?」
 しかし、廊下の角を曲がったところで考え直しました。
 吏族たるもの常に冷静でいなければと、気を取り直し、一息ついてずれたフレームを直す。
 壁から顔を少し出して確認してみました。
 「ひぃ。」
 やはり、きらきらした目で追っかけられていたので、ものすごい速さで歩いて逃げました。
 15分位した後、後ろを確認。
 「ほっ。逃げ切れたわ。私って、結構足速いかもv……ってあら、阪さんは?」
 
 運悪く最初につかまったのは逃げ遅れた阪である。
 「捕まえましたよ、阪さん。さあ愛とは何であるかじっくりと教えて差し上げましょう」
 阪に暑苦しい顔を近づける鴨瀬。もっさりとした耳毛が阪の顔に触れる。
 「いーやーぁっ!」
 ポケットにあるものを手当たり次第必死に投げつける阪。
 ビンが割れるような音ともに白煙が辺りに立ち込める。
 「熱っ!!!」
 「やったわ!」
 鴨瀬の拘束から逃れた阪は隠れる所を探す。その時物置からハッカの鳴き声が聞こえた。
 「そこに逃げればいいの?」
 はやくはやくと言わんばかりに尻尾を振るハッカ。あわててがさごそと物置に隠れると其処には先客が。
 「よかった。間に合ったようだ」
 444とゴダイゴ、そして忌闇である。
 そのままじっと身を潜めていると、鴨瀬が目をきらきらさせて前を通り過ぎていった。
 「ふー、いいところに隠れ場所があって助かった」
 「ニャー(普段から調べておくものさ)」
 「やれやれ、ようやく逃げ出せたわ。助かったわ、ハッカ」
 へたり込んだ阪の隣でにゃうんと鳴く。
 「ふう……鴨瀬さん藩王秘蔵のきのこでも食ったのかな……」
 「ひどい目にあったわ……お返しは何がいいかしらねぇ」
 と黒い笑み。
 
 一方その頃、鴨瀬。
 「バナナの胃液か何かでしょうか……せっかくのラッピングが台無しです」
 レインボーのリボンが所々溶け、モザイク処理が必要になっている。
 「こんなに妨害工作にあうとは心外ですね。やはり悪の秘密結社LKKの洗脳が進んでいるという情報は本当だったのか……
 くっこれしきで遥かなる理想が打ち砕かれるとでも思ったのですかっ?!」
 「あのーどうかしたんですか?」
 ひょっこりと顔を出す田中。
 「ああ、田中さん。丁度いい所に。……なんで女装してるんですか?」
 「今度の作戦の為に必要だとか。それで御用はなんでしょう?」
 「ああ、そうだ。実は悪の秘密結社LKKによってakiharu国のピンチなのです。
 LKKは暗黒面に落ちた負け犬クラブから構成されていて、幸せそうなカップルを壊し、
 世界中の愛と平和を打ち砕かんとする全世界の敵なのです」
 「はあ。それでどうしてakiharu国のピンチなのですか?」
 「よくぞ聞いてくれました。
 私はakiharu国に愛と平和を布教する為、ゴロネコ王国から戻ってきたのですがその布教活動を妨害する者が居るのです。
 これはつまりLKKによってakiharu国が脅かされている証なのです!」
 「……なるほど」
 「わかって頂けましたか、同志田中よ!
 と言うわけでLKKに洗脳されたakiharu国の国民を正しい道に戻す活動をしているのです。
 同志も手伝って下さい」
 「分りました、連れてくればいいんですね」
 素直にうなずく田中であった。
 心強い仲間を得、鴨瀬は田中と共に城を出て街へと繰り出した。
 被害が、更に広がる。
 
 天狐は久々の休暇を愉しんでいた。
 雑踏の中背後から迫る怪しい気配。
 ふと振り返ればもっさりしているナニカを発見し。
 「な、なんだこのおぞましいプレッシャーは・・・よ、寄るな、うぉぉぉ?!」
 よく分らないまま人の波を掻き分け、逃げ始めた。
 15分後。
 akiharu国の都市部は急速に無計画に発展したがゆえ、ほの暗い裏路地やごちゃごちゃとした小道が多い。
 そうした裏路地の一角に逃げ込んだ天狐であった。
 風紀委員会との激闘でこうした経験は豊富であった。
 「誰かに似ていたような気がするんだが・・・さて」
 
 時同じくして橘は灰奈と一緒に買い物に出かけていた。
 「……たちばなと一緒に、買い物」
 上機嫌の灰奈。
 よく見てみると灰奈が橘を引きずり回しているように見える。
 突然、橘が曲がり角を凝視する。
 「あの曲がり角の先に・・・見える・・・俺には見えるぞっ(ギュピーン)」
 今日の食事も何か盛られていたようです。
 そのまま曲がり角へと進む橘。
 「見える、見える、一体どんな芸術が俺を待ち構えているだっ!」
 「……橘、危ない」
 必死に橘の袖を引っ張る灰奈。
 制止を振り切って角を曲がりきる橘。
 そこにいたのは。
 「・・・もっさり・・・ゴバハァ−(血を吐いてぶっ倒れる)」
 「おやおや、私のこの姿を見て倒れるとは。愛が足りないようですね」
 鴨瀬であった。
 きっと左目で鴨瀬を睨み、橘の前に出る灰奈。
 「……遊んでいいのは、灰奈だけ」
 「ふむ」
 灰奈のあごを持ち、目を見つめる鴨瀬。
 「貴方も愛の同志のようだ。ならば、橘さんは貴方に頼みます」
 「……まか……せて」
 かくて、橘の身の危険はさらに増したがそれはまた別のお話。
 
 何気なく歩いている最中に、ふとした違和感を感じる。きょろきょろと周りを見る清白。
 「な、何か寒気がするんだけど……風邪かな。風邪だよなぁ、ははは」
 前を見ると、もっさりとした何かが居る。
 「……って、うわっ!?」
 慌てて逃げ出そうとすると、後ろには田中が。
 「ちょっと、何をっ。ま、待つんだ! 僕と今の状態の鴨瀬さんじゃ絵的にバグってい……うぎゃー!!」
 清白の意識はそこで途絶えた。
 
 再び意識が目覚めるとそこは一切窓の無い、裸電球の灯るほの暗いコンクリートの一室であった。
 清白は部屋の真ん中で椅子の背に縄でぐるぐる巻きにされている。
 「ふふふ、気づきましたか」
 部屋の隅には二つの黒い影。
 「ひっ、いっ一体どうするつもりなんだっ!」
 「なに、暗黒面から解放して差し上げるだけですよ。さ、これを食べて……」
 フォークに突き刺さった黒い物が差し出される。
 「いやだーっ!」
 必死に抵抗する清白。
 「仕方が無いですねぇ。田中さん、フォークをもって。私が抑えますから」
 無理矢理押し込められる黒い物体。
 「ふぎゅう……あ、甘い?」
 「そうだよっ!僕が腕に寄りをかけて狩って来たチョコレートケーキなんだからっ!」
 胸を張って出てきたのはねじり鉢巻が可愛い観光地のガイドさんである。
 「今回は助かりましたー」
 深々とお辞儀をする鴨瀬。
 「では僕も」
 はむっとチョコレートケーキをほおばる田中。
 「あっ…あのう…事情がよく分らないのですが何故に地下室で縄でぐるぐる巻きにされてチョコレートケーキを食べると暗黒 面からの解放になるのでしょうか?」
 「それはですね。統計調査によると、負け犬クラブに入った85%以上の人々がバレンタインデーにいい思い出が無いそうです。
 また、そこから暗黒面に落ちる70%以上が3年以上チョコレートと縁が無い。
 つまりここから導き出される結論として、バレンタインデーにチョコレートを食べれば人は暗黒面から解放されるのです!」
 人差し指を立てて説明する鴨瀬。
 「それなのになぜか皆さん誘おうとすると逃げてしまうんです。
 皆、暗黒面から帰って来られないのでしょうか……」
 (それは、あんたの格好が変態的過ぎるからだっ!)
 そう心の中で突っ込む清白であった。