ここは工学部研究棟の一つ。
たくさんのカマキリや、人間の研究者達が新たな技術を生み出すべく、研究に勤しんでいる。
この棟における主な研究テーマは、新型のエンジン。
燃料電池系に属するそれは、決してニューワールドの常識を覆すような驚愕のものではない。
akiharu国=TLO遺跡の国 という認識が他国にはあるかも知れないが、
この国ではTLOと共存を目指すが故に、その濫用は抑えられていた。
それは、よくわからないものをよくわからないままに使った結果である共和国土壌汚染によって
一度藩国が壊滅した、という経緯を踏まえたものでもあるが、
この国ではまた別の答えが返ってくることだろう。
「だって、わからないものを使って問題が出たら、そのメカがかわいそうじゃないか」
──TLOエンジンを使った結果周辺被害が発生し、廃棄処分となった黒曜子のケースを暗に示している。
akiharu国では、機械もまた国に暮らす生き物の一種であり、使い捨ての道具ではない。
だからこそ、この世に送り出したものには、親として責任を持たなければならない、という認識があるのだ。
また、そうでなくとも、未知の技術を使って不具合が発生したとき、
何が原因かわからなければそれを直してあげることすらできない。
苦しむ仲間に対して何もしてあげられない。それはとても、辛いことだ。
だから彼らは、ひとつひとつ既知の技術を積み上げて、たとえゆっくりでも足場のぐらつかない一歩を進むのだ。
彼らがエンジンを研究する理由は、その小型化を成し遂げるためである。
I=D用ほどパワーは必要ないが、小さく、安定して、丈夫なエンジン。
まさに生き物における心臓としての要件を満たしたエンジンを、彼らは目指している。
それは、研究棟の奥で眠る『彼女』のためだ。
──かれんちゃん。
かつてはakiharu国に何人もいた彼女達はakiharu国を護るために、その全員が失われてしまった。
それからもう何年も経つが、akiharu国の民は彼女のことを忘れてはいない。
人とカマキリと猫が共存するakiharu国。
そこにドロイドという種族が一緒にいることに誰も異を唱えようとはしないし、
一緒に過ごせない現在を皆寂しく思っている。
だから今日も彼らは、一歩一歩研究成果を積み上げていくのだ。
『おかえりなさい』と言うその日のために。
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