番長と呼ばれる者達がakiharu国に登壇したのは14ターン目春のことであった。
それは13ターン目冬の悲劇を乗り越え、新たに芽吹いた若い息吹である。
その職業アイドレスにはじめに袖を通したのは、akiharu国の主要民族であるカマキリたちではなく、少数民族と化した人間種族であった。
彼らは言う。「いつまでも守られるだけじゃ終われないぜ」と。
そして彼らは胸に刻んでいる。
冬に弱体化するカマキリたちを、弱くとも季節の影響を受けない自分たちが助けねばならないということを。
マンイーターの悪夢から人間を護ったのはカマキリたちであった。
人間達はその恩義に報いる必要がある。そう、人間の学生は感じていたのだ。
確かに身体能力で人間はカマキリにかなわない。でも、カマキリが辛いときは人間が助けるべきなのだ。
カマキリに保護されなくとも人間の手で工場や宇宙施設を動かし、外貨を得られるようになるべきなのだ。
それが共に和すということであると、誰に言われるまでもなく、魂で感じ取っていた。
誰もが誰かを護ろうとしている。つまりはそういうことであった。
「ほら、番長って面白そうだし」
「きゅお」
○番長の政治的立ち位置
共和国各国で相次ぐ不安、そして先に他国で発生した学生運動。
このままでは、学生達はその本分である学業どころではないのではないか──?
番長の出現に際し、akiharu国政府は一般学生とは違う力を持った学生達を、今までの役職に付与する形でこうカテゴリ分けすることにした。
風紀委員会:
学生運動の名を借りた反政府テロ活動が行われるのを抑止する
生徒会役員:
学園を健全に運営し、統治する役割
そして、残る1つ、番長は──
番長:
学園、そして藩国に迫り来る脅威を実力で排除し、平和を守る役割
それぞれの権限は分離しており、番長が武力で学校を支配したりすることは厳しく取り締まられている。
もっとも、3職を兼任するものが存在しないわけではない。
ただしそれはその力を無闇に振るうことが出来る存在ではない。
全ての権限を持つ代わりに、全ての役職の義務を担う強固な精神を持っている存在なのだ!
○番長の制御
ニューワールドで職業アイドレス制御に使われているのは主に根源力である。
確かに根源力で力を制御する手法を取れば人口比に応じてある程度一定の効果が生じる。
しかし、akiharu国においては現地住民の根源力を士季号が大きく成長させており、また第7世界人はその多くが変身ヒーローになったために根源力が低いという逆転現象が起きている。
これでは制限のしようがないというのが通常の見方であろう。
だが、akiharu国の番長を縛るものは根源力ではない。
番長が番長であるために必要なもの──それは『誇り』である。
たとえそれが他人から愚かであると言われようと弱者のために体を張り、それで傷つこうとも胸を張って笑える態度。それこそが番長の根源である。
逆に、誇りを失えばそれはいくら武力があろうともそれは番長ではない。
それはただの暴力学生でしかなく、このような人々を苦しめる存在こそが番長の戦うべき敵なのである。
そして、その敵ですらも番長の拳を受けることで改心し、また自分もそうあろうと心改めることだろう。
番長に舎弟が数多くついていくのは決してその武力故ではない。
「この人ならついて行ける」「この人の力になりたい」と心から納得しているから故なのだ。
誰もが誰かを守ろうとすること。そして優しさと笑顔を忘れないこと。
akiharu国には今も、レディの優しさが息づいている。
○番長の日常
番長と言えども人の子である。
以下は番長の日常の一コマを捉えた貴重な記録である。
朝4時。いつも通り一通りの筋トレを済ませた後朝食を食べて、猫に餌をやる。
それらが終わったら、長めの学生服を着て学帽を深めにかぶり、家を出る。
5時。どの生徒よりも早く学校に登校し、花壇の手入れを始める。
「別に、見られるのが恥ずかしいから早く来るんじゃねぇ、家にいても暇なだけだし、誰も手入れしないから仕方なくだな……」
などと、一人でぶつぶつ言いながら花に水をやり、丁寧に雑草を抜く。
昼休み。舎弟の一人が、「不良生徒が暴れているから来てください。」と言うので屋上へ。
屋上に行ってみると、確かに変なやつがいた。どっから持ってきたんだよ!て言うくらい長い剣を振り回している(・・・というか振り回されている)。
ほっといても危ないので、とりあえずパンチで剣を砕いて頭突き。また舎弟が一人増えた。なぜか俺が殴ると大抵のやつは改心する不思議。
放課後。舎弟たちと一緒に体を鍛える。途中でまた変なやつに絡まれたが、一発殴って更正させた。
また二、三人舎弟が増えた。
舎弟と別れた後、ヒーローに加勢して怪人をやっつける(というショーにゲスト出演した)。
番長の拳で怪人をも改心させる。ただのショーのはずだったのに怪人役の人がほんとに舎弟にしてくれと頼んできたので、かなりあせった。
子供たちの笑顔を見れたので、とても満足して家に帰る。
帰宅。着替えをして、猫に餌をやり、自分も夕飯を食べる。
「にゃー、にゃー」
「・・・」
そして寝る前に、猫とじゃれる。
とある番長の、割りと普通な1日。