カリカリカリ。そんな擬音が今にも聞えてきそうな表情で一心不乱にモニターを見つめる者達がいた。
akiharu国藩王と愉快な仲間達である。
「これ、ホントになにか有用な資源でるんですかね?」
「うちの国なら「実は何もありませんでした!」とかありそうですよね、きっと」
「なんにもでなかったらどうします? マーズエクスプレス」
「はっはっは どうしようね!」
そんないつものように軽口を飛ばしてても皆真剣である。胃もキリキリである。多分藩王の胃にはもう2、3個穴が開いていると思われた。
先行して火星に送った探査機からの連絡予定時刻まであと3分。これでなにも見つからなかったら…今は考えたくも無い。
「来ました。第一報です。メインディスプレイに表示します」
宇宙ステーションに送られてきた通信が本土に転送されてくる。その通信補助とデータ解析担当はかれんちゃんだ。
「おお……これは……!!」
画面を見つめる一同。画面には無機質な数字の氾濫。
「さっぱり分からん」
「……こちらのデータの参照を推奨します」
表示された火星の地形データを元にした有用鉱物分布図。この広大に広がる赤い範囲は!
おおっ、とどよめきが走った。
「きた、資源きた!これで勝てる!!」
若干の不安を拭い切れなかった本計画であるが、これにて全関係者が胸をなで下ろしたのは言うまでも無い。
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火星探査成功の報を受けてにわかに活気付いたのはマスドライバー試作機解体チームである。
何台も大規模施設を作る余裕など元から無い。小ユニットに解体して検品、使えるものは使う。そしてそれをコールドオータムに乗せて宇宙ステーションから射出するのだ。
しかし、まぁ、これがあまり作業が進んでいなかった。有り体にいえば、折角作ったマスドライバー、解体してしまうのはなんとも勿体無かったのである。
巨大建造物ゆえ現場には巨大カマキリたちの働く姿が目立った。面白いこと大好きな彼らである、資源発見と聞いて作業効率が2倍は上がった。これにて解体作業が先行し、それに合せて人間や猫士たちのコールドオータムへの積み込み作業も急ピッチで進められることとなる。
火星までの輸送には、大気圏突入型のコールドオータムが新規に制作された。
この大気圏突入型は、耐熱コーティングを入念に施されているのはもちろんのこと、増設ユニットのパラシュートとロケット噴射で減速後、ほぼ全体を包むエアバッグを展開、火星表面上をバウンドさせながら着陸させる仕様である。
この方式はロケット推進のみの軟着陸より大幅にコスト削減でき、増設ユニットを用いるので輸送量を圧迫しない。起動のための電源は外面に張られたソーラーパネルにて蓄電された。このソーラーパネルは突入時には燃え尽きてしまうが。
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akiharu国上空、太陽光に翅を煌かせて飛ぶ一匹の蝶がいる。宇宙ステーション「AGEHA」。
かれんちゃんは、ディスプレイにグリーンで表示される幾つもの軌道の中に、新たに軌跡を描く三角形が、完全にその下の軌道をなぞっているのを見届けると、コンソール上の指を静止させ言った。
「コールドオータム、全て射出完了しました」
「よし。あとは、みんなを信じて待とう」
かれんちゃんからの連絡を聞いて、藩王涼原秋春はいつものヒーローショーステージに集まる国民たち全てに聞かせるように言った。わーっと、一斉に歓声があがる。ここまでの工程に係わった全ての人間、猫、カマキリ、そして他国の協力者たちが集まって、仲間の火星への旅立ちを祝していた。
その日は皆が空を見つめていた。
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